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[R18][SakaUra] ターニングポイントは、赤。

Author: うらら

Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19244421

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うらたside

その日は、

う「あっ♡あぁっ、♡ん〜っ!♡ひゃ、♡あ、ぅっ♡」

さ「…今日、溶けるの早いねぇ…っ」

……その日は

さ「は、…っ、かわい」

う「ぁ、んっ♡は、ぁ、…もっ…♡さか、たっ…♡」

う「いれて………っ…♡」

______危険日だと、知っていた。

さ「ん、…ちょっと待ってな」

さかたの手は、ベッドサイドの引き出しに伸ばされる。おそらく、目的はアレ。俺とさかたを隔てる、薄い膜。

その手を追いかけるように、自分も手を伸ばして触れた。びくり。予想外の行動に驚いた彼が止まる。

さ「うらさん?」

う「…今日、は無しがいい…」

言った。言えたぞ、俺。声は少し震えちゃったけど、しばらく前から考えていた言葉をようやく口から出せた。

う「お願い…」

指先を、きゅっと握る。さかたはいつも優しくて、俺のことを大事にしてくれて、すぐ飢えてしまう俺にたっぷり愛をくれる。そんな彼が毎回律儀に俺との距離を隔てる理由も、嫌というほどわかってる。でも、それじゃもう…。

さ「うらさ、…」

う「ん、っ………」

優しく、とろけるような唇を落とされて、欲が孕んだ目が俺を貫く。ぞくって体が泡立って、無意識にごくりと唾を飲んだ。…やっと、やっとさかたと……!

するり、さかたはもう片方の手で俺の指を撫でた。

さ「あかんよ、うらさん」

さかたの言葉はどんなに嫌な言葉だって、すとん、と心に落ちてくるんだ。

う「な、んで……っ」

さ「うらさんが、大事やからやで」

う「……っ、」

そんなテンプレ台詞、聞き飽きたよ。…なんて毒づいてみても、結局愛を感じられる言葉には、きゅんときてしまう俺。単純すぎ、さかたのこと好きすぎかよ。そうなんだよ、すきなんだ。だから…!

さ「うらさんがお腹痛くなったらあかんし、それに、万一のことがあったら…」

う「…さかたとの赤ちゃん、欲しい」

さ「……」

う「本気だよ、おれ」

ゴムをつけないでって言うのにはあんなに苦労したのに、もっと根っこの大事なことは意外とすんなり言ってしまった。さかたが俺のことを受け入れてくれない気がして、勢い任せに言ったところもあるかもしれない。本気、だなんて自分に言い聞かせるようにしながらも、目線は逸れて。

だって、すきなんだもん。さかたになら俺の全部あげちゃってもいいって思うくらい、惚れちゃってるんだもん。むしろこっちはあげたくて、受け取ってほしくて、こんなに必死なのに。理屈はわかる、でも頭で理解することに心が全部ついていけるわけじゃないんだよ。

たかだか0.01mmのことで何かが劇的に変わるのか、と問われれば俺は答えられない。むしろ自分がこんなことにこだわってて、ばかだなぁとも思う。でもさ、恋って、愛って、そんなことに必死になるくらい溺れちゃうものなんじゃないの。本気で好きになるって、そういうことじゃないの。

う「……っ、すき」

ひく、と喉が震えた。零れ落ちる吐息も震えてしまっていて、慌てて止めようとするとしゃくり上げるような声が出た。気づいたら、ほっぺたが濡れている。

こんなにも好きなんだ、…自分でも、ちょっと引く。重たいなぁ、俺。好きだから生でやってよ、子どももできていいから…ってなんて欲望に忠実で無責任なんだろう。

自己嫌悪に陥りそうな俺を、すくうようにさかたは頬を撫でた。

さ「………ほんまに、この人は」

ちいさい声で、呟いた。

さ「俺のことが、好きすぎて泣いてんの…?」

結局は、そういうことになるだろう。こくり、と頷く。こんな歳にもなって情けない。男なのに、年上なのに、弱虫で、泣き虫で、さかたに甘えっぱなしの、

さ「ん、………っ、俺も、すき。わかってるとは思うけど」

唇を塞がれたせいで、思考は途切れてしまった。さっきよりずっと近くなった距離で、もう一度、ぷちゅ、と唇がくっつく。

さ「好きやから、めちゃくちゃにしたいって思うで。恋人にそんなこと言われたら、…もう、我慢できんくなる」

そこで、ギラギラした瞳がふっと細められた。欲の中に確かに混ざる、慈しみ、の色。

さ「でも、それ以上に大事にしたいって思ってる。で、その理由もやっぱり、好きやから、なんやで」

ぽろり、零れた涙はシーツに落ちる前にぺろりと舐められた。ひゃ、と小さく出た声に、さかたが笑う。

さ「好きや、うらさん」

う「お、まえっ……ずるい……!」

さ「あは、そう?」

わかってたよ。知ってたよ。俺がどんなに言っても、さかたはその意志を曲げないってこと。それはさかたが俺に必死じゃないんじゃなくて、さかたの本気の「好き」がそれだってこと。ちゃんと、わかってたんだけどなぁ。

まだもやもやしてたのに、手をぐっと引っ張られてさかたの胸に飛び込む。ぎゅっと、優しく、それでも強く、背中に腕を回された。

さ「でも、めーっちゃうれしかった!」

う「へ、」

さ「赤ちゃんの話。欲しいって、言ってくれて。正直心揺らいじゃった」

ぐす、と鼻のすする音。俺じゃないから、残るはあと1人。あぁもうやっぱり、2人の好きは同じなんだ。好きすぎて、好きすぎて、どうにかなっちゃいそうなのは、さかたも同じ。

う「当たり前、だろっ…。おれ、もうさかた以外考えらんないっ」

さ「はぁ〜っ、もう……そういうのほんまに揺らぐから、やめてぇぇっ」

ぱっと体を離されて、見合わせた目にはやっぱり水滴が覆っていて。さかたがしてくれたように、そっと目尻を拭うと、「ありがと」って微笑まれた。

さ「でもな、まだ結婚前やん?婚前に赤ちゃんつくっちゃったら、うらさんのご両親に誠意が伝わらんなぁって」

う「…うん」

さ「2人で幸せになること、せっかくやからお祝いしてもらいたいし。胸張って、顔向けできるようにしとかなって思う」

う「ん、そうだよね」

こくん、と頷いた俺の頭をくしゃりと撫でてから、さかたは慌てて口を開いた。

さ「もちろん、赤ちゃんがおったら顔向けできひんとか、後ろめたいとか、そういう意味やないでっ…?んと、なんて言ったらええんやろ、…俺が大事にする決意が見えへんっていうか、えっとぉ…!」

う「ふふっ、大丈夫。さかたが、赤ちゃんのこと蔑ろにしないってわかってるから」

さかたが弁解しなきゃいけないようなことを考えていたわけではないし、むしろ、俺とまだ見ぬ2人の子どものことを守るための選択をしてくれているのは十分わかってるんだ。あーあ、俺にはもったいないくらい素敵なパートナーすぎて…なんかむかつく。

う「…さかたさん、プロポーズはいつですか」

さ「ぅえっ!?まって、ちょっと変な汗かいてきた」

う「いつもお前ベタベタじゃん」

さ「失礼やなぁ。…ぷ、ぷろぽーずは、また落ち着いた時、とかに…」

目線をきょろきょろ動かしながら言うもんだから、思わずぷっと吹き出すとこつん、とおでこが軽く小突かれる。ちら、と顔を見上げてみると、…んふふ、真っ赤じゃん。

う「そんな緊張しなくていーよ。落ち着いたらまた俺からプロポーズするからね」

さ「えっ!?いやいやそこは俺にやらせてや!」

う「えぇ?だってさかたさんに任せてたらいつになるかわかんないし」

さ「うぐ…頑張るから…」

今度はおでこにおでこが合わさって、やいのやいの言い合う。だって俺、愛伝えたい派じゃん。サプライズも好きだし、…俺も男なんだし、大好きな人に結婚してって言いたいもん。

むむむ、と顔を顰めた俺のほっぺたに、何を思ったかさかたが焦った顔で触れる。

さ「勘違いされてるかもやけど、プロポーズしたくないってわけじゃないからな…!?」

う「ばか。わかってるよ」

俺からもさかたのほっぺたに触れた。ちょっと熱くて、そんなさかたが大好きだと思う。ばかだなぁ、ほんと。気持ちはちゃんと伝わってるのに。

さ「一緒にいたいのは、うらさんだけ。そこは安心してて」

真っ直ぐな瞳が映すのは間違いなく俺だけ。…その言葉が、声が、目線が、優しく頰に触れる手が、もうプロポーズになってるって気づいてんの?

思わず込み上げてきそうな涙をぐっと抑えて、不敵に笑った。

う「俺の答えももう決まってるから、安心してプロポーズしてこい」

さ「お、男前ぇっ………」

雪崩れ込むように体重をかけてくるさかたを受け止めきれなくて、2人でベッドに倒れ込む。柔らかいシーツが、俺たちを優しく包み込んでくれた。

さ「…待っててな。絶対幸せになろ」

う「うん、待ってる」

もう十分に幸せだ、なんてこいつが調子に乗りそうな言葉は心の中で呟いて、降ってくるキスを受け止めた。

_____それが、だいたい3年前のこと。

さかたside

さ「うらさん、その…ちょっといい?」

お互い仕事から帰ってきて、一緒に夜ご飯を食べて。食器を洗い桶に置いたタイミングで声をかけた。

う「…大事な話?」

さ「ん、なんでわかったん?」

う「お前にしては真面目そうな雰囲気と〜、」

なかなか失礼なことを言った後、彼はいひっと悪戯っ子みたいに幼く笑う。

う「そういう時、『うらさん』って呼ぶからっ!」

はっ。自分の口元を押さえる。うわ、めっちゃ無意識やった。当のうらさん____わたるは、言い逃げしてリビングへと駆けて行く。んむぅ、随分ご機嫌やな。

プロポーズしたのは、2年くらい前。小さい結婚式を挙げたのは、それから半年経ったあと。それまでも同棲はしてたけど、本当の本当に2人で一緒に暮らし始めて、1年半が経とうとしていた。

婚姻届を役所に出したあの日、「もううらさんって呼べないね」って言ったら少し寂しそうな、でも照れたように「俺も『坂田』になっちゃったからね」って微笑んでくれた顔はずっと忘れられない。

「うらさん」が「わたる」になって、「さかた」が「あきら」になって。

もう結構経つのに、こういう時にやっぱり昔の呼び名が出てしまうんやなぁ、と少し笑った。

さ「はい、どーぞ」

ことり、とわたるの前にコップを置く。中には少しぬるめのココア。猫舌なわたるにはちょうどいい、俺だけが作れる彼の好みの味。

自分の前にはインスタントで作ったコーヒーを置いて、隣に腰掛ける。それだけでわたるの緊張が伝わってしまって、そっと指を撫でてあげた。

う「…なに?話って」

バレないように深呼吸。不安そうに揺れる瞳に、大丈夫って笑いかけて、自分の緊張を抑えるようにぎゅっと手を握った。

さ「結婚して、1年以上経ったやん」

う「うん」

さ「やからさ、…んー…と、」

今度はわたるが俺の指を撫でてくれる。少し緊張が和らいで隣を見ると、わたるもこっちを見ていた。

さ「そろそろ…子どものこと、真剣に考えたくて」

言えた。ふぅ、と息を吐くと、一気に脱力した気分。あはは、思ったより緊張してたんや、なんて他人事のように思った。

そんな俺をじぃっと見つめてから、わたるはぎゅっと目を瞑った。ぱちり、開いた時にはしっかりと決意が灯っているように見えた。

う「うん、そうだね。……あきらは、どうなの」

さ「俺は…」

この話を持ち出すからにはあらかじめ考えていたことやけれど、改めてもう一度考えた。こんな大事なこと、何回だって考え直してもいいし、むしろそうしなければいけないと思う。人の、命の話なんやから。

さ「俺はね、……欲しいと思ってるよ」

う「……」

手は、まだ繋いでいた。じんわりと汗がつくのも気にしないで、ぎゅっと握り直す。

う「理由とか、聞いてもいい…?」

さ「子どもはそんな特別好きってわけやないけど…。んん、と…わたると、俺の間に子どもができる可能性があるなら、」

もしも。

まだ俺が知らない幸せに、想いを馳せる。

さ「その子に出会いたいなって思ったんよ」

どんな瞳で、俺たち2人を見つめてくれる?どんな声で、俺らを呼んでくれる?まだ名前も、…存在もない君は、どんな幸せを俺たちにくれるかな。

さ「あと親父には、ほんまに感謝してて。いろいろ迷惑とか…心配かけたけど、でもそんな俺をずっと見捨てんと育ててくれた。親父にしてもらったことを、今度は俺も、自分の子どもにしてあげたいって」

一言一言を噛み締めて言った。自分の気持ちをわたるに伝えてるはずやけど、その言葉は自分にも返ってくるように感じる。それと同時に、子どもへの思いが一段と強くなった。

……けど。それでも。

さ「わたるは、どう?」

これは俺だけの話やないから。2人で、考えることだから。

俺の視線を受けて、ゆっくりと彼が俯いた。もう少しだけ距離を詰めて、丸まった背中をゆっくりと撫でる。

さ「わたるの正直な気持ちが知りたいな」

俺は確かに子どもが欲しいって言ったけど、それはわたるがいるからっていう大前提がある。わたるが一緒にいてくれるから幸せが生まれるのであって、…決してそこは見失ったりしたくない。

う「俺は、…こんな体、だから」

ぽつり、と溢した。

う「ずっと、嫌だった。自分が気持ち悪いって思うこともあった。反抗期の時、…母さんに、八つ当たりしたこともあった」

あぁ、背中を撫でるだけじゃ足りない。直感でそれを察して、ぐっとその肩を抱き込んだ。

う「なんで、生理なんかくる体に産んだんだよ……って!」

_____彼は、所謂生理男子だった。

同性同士でも結婚ができる。そんな時代にはなったけど、男の体でも生理がくる体質は、存在も、認知度もまだ少ない。俺が勤めている病院でもわたると同じような体質を持ってる人には出会ったことがなかった。

俺と出会う前から、ずっとこの人はその体質に苦しめられていた。直接本人から具体的なことを聞いたことはないけれど、「生理が来始めた思春期の頃は、渉も私も大変だったの」とお義母さんからぽつりと聞いたことがある。

俺は、わたるの苦しみを丸ごとわかってあげることはできない。生理中はイライラしてて、俺にも何回かきつい物言いをすることもあったし、実際に少し傷つくこともあった。でもわたるが、何か俺に言葉を吐くたびに、物を投げつけてくる度に、ずっとずっと誰よりも苦しそうな顔をするから。お腹を押さえながら、震えているから。

『大丈夫。うらさんが何を言っても、どんなことをしても、俺は離れていかないよ』

生理男子は、本来その器官がないはずやのに子宮ができたり、血が出たりしてるわけやから、体の負担は女性よりも重い。周りとは違うっていう精神的な辛さも人一倍。プラス、彼特有の負けず嫌いっていうか、意地を張ってるっていうか…とにかく人を頼らずに1人で立ち向かっちゃう強がりな部分も相まって、生理中のうらさんは、いつもより何倍も小さく見えた。

だから、隣で背中をさすることにした。一緒にしゃがんで、できるだけ同じ目線で、苦しい現実を受け止めた。

それがほんまの意味で、彼自身のためになっているのかはわからんけど。安心して体温を預けてくれる彼に、これからもずっと自惚れてしまうんやろうな。

う「本当に、…本当に嫌でたまらなかったけど、……あきらに出会って、こんな俺でも肯定してくれて。好きって、言ってくれて」

さ「うん」

う「毎月嫌だったあの期間、あきら…すげぇ優しいんだもん。できるだけ、ずっと一緒にいてくれるし」

さ「あれ、いつも優しいやろ?」

う「いつも優しいけどぉ…なんかね、労わってくれるっていうか、大切にされてるっていつもより、思う」

息を吐く。そっか、…そっかぁ。そんな風に接することができていたのなら、単純に嬉しい。思わずわたるの頭を撫でると、当たり前のように擦り寄ってくれる。うん、やっぱりめっちゃ嬉しい。

う「…そしたらさ、1人で耐えてた時よりも楽になった気がするんだ」

さ「出会った頃に比べて、だいぶ安定してきたもんなぁ」

精神的なストレスからか、生理の周期がバラバラだったわたるは、一緒に過ごしていくうちにゆっくりとバランスを整えていった。デートの時も、お泊まりの時も、安心した顔で笑う彼を見ることができるようになって、もう何年も経つ。

う「それでさ、最近…自分の体に対して、少し考えが変わったんだ。んと、正確に言えば…変わりそうだなって」

さ「うん」

まっすぐな視線が俺を見る。決意を灯した瞳は、まだその輝きを失っていなかった。

う「俺がこの体に生まれてきた意味を、知りたい」

さ「…うん」

う「この体で良かったって、…生まれてきてよかったって、心から思いたい。子どもに、…お前に出会うために俺は生まれてきたんだよって、そう言いたいんだ」

さ「ん、…そっか」

静かに、相槌を打つ。それは、俺にはできないことだ。俺はうらさんを丸ごと認めて、肯定して、大好きやって伝えることはできるけど、うらさんの体そのものの存在意義になることはできない。唯一の存在は、その体から生まれる子だけ。あは、ちょっと妬いちゃうなぁ、なんて思いながら、彼の勇敢な決断に涙腺が緩んだ。

う「それって、エゴかな…。自分のために、子どもを利用してる、ことになるのかな」

さ「そんなん俺もよ。向こうは俺に会いたくない!って思ってるかもしれんけど、勝手にこっちが会いたい〜って言ってるんやから」

う「ふはっ、そんなことないだろ。きっとあきらに会いたいって思ってくれてるよ」

さ「それやったら、わたるにも会いたいって思ってくれてるよ。俺ら2人に会いたいって、…そう思ってくれてたらええなぁ」

う「うん、…ふふ」

さ「どしたん?」

突然笑い出したと思ったら、ぎゅって…いやもっと体ごとどーんっ!て体当たりしてきた。顔を覗き込むと、俺の腕の中でくふくふと笑ってる…俺の、最愛の人。

う「大好きだなぁって思った!」

さ「え〜?なに急に、照れるやん」

むぎゅむぎゅ抱きついてくるのを、むぎゅむぎゅしながら抱き返す。すん、と空気を吸うと、甘い匂いがした。

う「…大好きな人との子ども、欲しいなぁ」

さ「うっっ…わ、もう待って!ぎゅんってきたんやけどぉ!」

う「へへ」

絶対赤くなってる頬を、わたるが面白そうにつついてくる。んもぉ、この人ほんま急に爆弾落とすんやから。心臓がいくつあっても足りひん。

さ「んむ…じゃあさ、2人とも同じ気持ちってことやんな?」

う「うん」

さ「良かったぁ。この話出すのめっちゃ緊張したわ」

う「あきらの緊張移って、こっちもどきどきしてた」

「ほんま?」とチラ見しながら聞くと、「ほんま」ってなぜか関西弁で返ってくる。それだけでなんかまたもう心臓が絞られるみたいにぎゅううっと痛くなって、パートナーの可愛さにくらくらした。

う「妊活、…とかやんなきゃね」

さ「え、えぇぇっ!なんかえっちぃ」

う「急にテンション上げんな」

わたるの小さいお口から妊活っていうワードが出てきて、思わず声が上擦ってしまう。そっか、俺ら妊活すんのか…とよからぬ妄想をした先に、少し、違う未来も見えてしまった。

さ「ねぇ、わたる」

う「なに?」

小首を傾げる彼は、気遣い上手で、人一倍頑張りやさんで、全ての責任を背負っちゃうような、かっこええ人やからさ。

さ「子どもは欲しいと思ってるけど、俺はわたると一緒におることが1番の幸せやから。もし、俺らのところに子どもが来てくれんくても、それならそれで2人の未来を大切にしたいって、そう思ってるからね」

男性の出産は、事例がないことはないやろうけど、まだまだ未知数だ。着床率は低いかもしれないし、男の体やからできにくいっていう可能性も高い。女の人でも、不妊に悩んでいる人はたくさんいる。子どもの存在は、本当に奇跡みたいなものやから。

さ「それに、ずぅっと2人きりってなんかロマンチックやない?」

う「出た、ポエマーあきら」

さ「えぇ〜?そう思わん?」

う「…思うけどぉ」

さ「ほら!」

顔を見合わせて、くすくす笑い合う。こんな瞬間が何よりも大切で、愛していて、ずっと続けばいいなぁと願っているから。妊活が成功しても、…上手くいかなくても、どっちになったってきっと幸せが待ってる。

さ「子どもは授かりものやから。焦らんと、自分らのペースで頑張ろな」

頭を撫でると、こくん、と頷くのが可愛い。背中に回された腕が、ぎゅっと強く締め付けてくる。

う「…ん、よろしくね、あきら」

さ「こちらこそ。負担いっぱいかけちゃうと思うけど、俺も全力で頑張るからなんでも言って。いっぱい相談して、いっぱい悩も」

う「うん、うん…っ」

さ「あれ、も〜泣いてんの?」

聞こえてくる声が鼻声やったから、顔を上に向かせるとやっぱり泣いていた。可愛いなぁって思いながら目尻を拭う。「泣くのはまだ気が早いで」って言ったら、「お前もうるうるしてるくせに」って返された。

さ「だってニブンノイチやもーん」

う「えへっ、そうだった」

約束事をするように指を絡め合う。こつん、とおでこを合わせたら、間違いなく俺らはひとつだった。

俺らの間にもう1人存在ができたら。そうしたら、このぎゅうっとくっついた間に挟んで、サンドイッチにしてあげよう、なんて。

わたるside

パタパタと、慌ただしく廊下を走る。とんとん、と靴を履いていたさかたに、はい、とお弁当箱を手渡した。

う「…これ」

さ「あ、ありがと…」

しん…と沈黙が落ちる。今日は起きた時からこんな感じだった。いつもは「おはよう」ってどちらからともなく挨拶をして、ぎゅってしたりちゅってちょっとだけ遊んだりするのに、ぎこちなく目線を合わせて、「…はよ、」と声をかけただけだった。

さ「…えぇっと、わたるは今日…午後からお仕事、やっけ」

う「うん。現場1つだけだから、あきらと同じくらいか…それより先に帰ってくるかも」

さ「そか……そんで、明日は2人とも休み、と……」

う「…うん」

なんだか恥ずかしくて目線を合わせられない。俯いて、朝から忙しない心臓の音を静かに聞いた。思ったより、…これやばい。

さ「っあ、そろそろ時間…」

看護師として働いているさかたにとって、朝の時間は短い。そっか、もう出ないといけない時間か。お弁当は渡したし、水筒も渡したし、と持ち物を確認して、えいっと顔を上げた。

う「今日も頑張って。いってらっしゃ…!?」

奪われる視界と、ほっぺたに残る感触に目を見開く。

さ「帰ったら抱くから、……なんて、えへ」

呆然とする俺に、「いっ、一回言ってみたかっただけっ!」とか言い訳を残してから「いってきます!」とうるさくドアを閉めた。ぺたん、とお尻が床につく。

う「ふ、…ふふっ…あははっ!」

なんだよばか、こっちは死ぬほど緊張してたのに。いやあきらも緊張してたんだろうけど!んふ、ふふふっ。

う「ほっぺにするのも言い訳も全部ダサい〜〜っ!ヘタレあきら!!」

お腹の底から笑いが込み上げてくる。ひとしきり笑って、興奮のせいか…あきらのちゅーや言葉のせいか、熱くなった頬に手を当てる。

う「あきらが帰ってきたら抱かれちゃうんだぁ、おれ…」

ぽつり、言葉にしたら体温が上がった。うわぁ、はずかし。何言ってんだろ。

う「俺も人のこと言えないくらいダサい〜……」

仕事の前にこのバカになった頭を治さなきゃ。俺はよろよろと立ち上がって、リビングへと向かった。

1日は瞬く間に過ぎ、お互い仕事を終えて今は2人ともベッドの上。こういう行為は何十回としているはずなのに、正座で向かい合ったまま沈黙が続いていた。

う「あ、…あきら、今日帰ってくるの早かったね…」

さ「えっ、あ、うん…やって、…なんか、早く会いたくて」

う「えっ」

さ「いや、だって…うん、まぁ…今日のことはやっぱり気にしてた、し…」

ちら、と視線を移した先は卓上カレンダー。今日の日付には小さく赤丸が書いてあった。

アプリに生理周期を入力してるおかげで計算された排卵予定日の3日前。1番妊娠しやすいのは、排卵日前と言われているらしい。

今更だけどアプリってすげぇな。こっちがわざわざ計算しなくても勝手にやってくれるのがありがたい。おかげで次生理来るの何日頃かって身構えることもできるし。

お互いの気持ちを確認しあったあの日から話し合って、あきらの夜勤がなくて、次の日が2人とも休みの今日が決戦の日となった。なかなか1回では上手くいかないとはわかってるけど、結構意識しちゃうもんだ。

さ「はぁ〜〜……やば、緊張する…」

う「な、なんか気をつけといた方がいいこととかあるのかな…!?」

さ「いや、でも検査はしてもらったし…あとはもうナカに注ぐだけっていうか」

う「言い方」

あきらの言う通り、つい先日2人でブライダルチェックっていう検査を受けてきたところ。妊娠するにあたって、体に問題がないか、性感染症とかの病気にかかっていないかを調べてもらった。結果は2人とも大丈夫で、可能性があるってことにひとまず安心したのは記憶に新しい。

それでも不安は完全には拭えない。気休め程度だけど、ベッドサイドに置いてあったスマホを取って調べてみる。『妊娠の行為で気をつけること』…うぅん、「行為」って言葉が曖昧であんまり検索に引っかからない…?んじゃあ、…えと、せ、っく………とまで打ち込んだところで「なぁなぁ」と声をかけられた。

う「んひゃぁっ!きゅ、急に喋りかけんじゃねぇっばか!」

さ「んぇぇっ!?なんでそんな驚いてんの!?」

くっそ、あきらってやつは……見られないように、画面をタップして検索窓から文字を消す。ふぅ、証拠隠滅。

う「何か見つけたの?」

さ「おん。えぇっとなぁ…特にこれといってはないみたいなんやけど、たっぷり愛して愛されること…やって」

う「…まじ?」

さ「ほれ」

くるっと向けられたあきらのスマホの画面には、「妊娠するには気持ちが大切!お互いの愛で成り立つような気持ちいい行為ができると、愛の結晶である赤ちゃんができやすくなります♡」と書いてあった。

さ「科学的根拠なんてないし精神論に近いけど、俺はこの考え方結構ええと思うなぁ。可愛いとか、好きとか、大事にしたいとか…そういう気持ちをいっぱい込めた愛で赤ちゃんができるんがきっと自然で、素敵やと思う」

ふっと目を細めてあきらが笑う。幾度となくその優しい視線で見つめられたのに、まだ俺の胸はどきどきと鳴った。はぁ、いつになったら耐性つくんだろ。

さ「それに俺、こういうことやったら自信ある!」

両手をグーにして、頑張るポーズ。…お前可愛いかよ。今度はきゅん、ときちゃって俺も同じポーズを取った。

う「俺も…自信あるっ」

最初の頃こそぎこちなかったけど、結婚した今ではあきらの愛を受け止めるのが上手くなったし、こっちから愛をあげることもできるようになった。あきらを照れさせちゃうことだってできる、んふふ。それくらい同じ時間を共有してきたってことだよね。

さ「えへ、じゃあ俺らばっちりやん」

う「いつもやってることだもんな」

さ「おん。…んふ、緊張してたけどちょっと楽しくなってきたかも」

う「ほんと?」

さ「え〜?…早くわたるに触れたくなった」

悪戯っ子みたいに幼く笑って、肩に指先が触れる。そこからじんわりと熱くなったのを認識する前に、ぎゅうっと勢いよく抱きしめられた。

さ「早く抱きしめたくなっちゃったぁ…」

う「び、っくりした」

「ごめんね?」と口では言いながら、全然力は緩めてくれないし、匂いを嗅ぐみたいに頭を俺の体に近づけてる。ほんと、大型犬と戯れてるみたい。そう思うとふっと力が抜けたから、背中に腕を回してみた。

ぎゅ、とくっつくとなんだか物足りなくて。お互いパジャマ着たままだもん。早く、早く、…肌に直接触れたい。熱い体温に直接触れて、そのままひとつになっちゃうみたいにぎゅってして。思いが行動を突き動かして、くい、とあきらの服を引っ張ると、少しだけ肩が覗いた。

さ「ふふ、なぁに」

…あむ。ちょっとだけ、甘噛み。理性が完全に残ってる段階でこんなことをするのは初めてで、その肩が揺れる。それでも吸い付いて、はむ、…はむ、と何回か優しく噛んだ。

さ「そんなことしちゃうん?…あは、肩べたべた」

唾液でてらてら光ってる肩を見て、楽しそうにあきらが笑う。じぃっと上目遣いで見つめると、ちら、とこっちを見て、一瞬で。

う「…んっ」

さ「は、…かわいいね。すっごく可愛い」

ちゅっちゅって唇が触れ合って、箸休めのように「可愛い」と甘い言葉も降らせてくるこいつは本当に器用だと思う。普段からそういうとこ発揮してくれたらいいのに。嘘、不器用なところが好き。なんでも世話焼きたくなっちゃう俺には、あほなこいつが1番なんだ。

そう思ったら、お腹の奥の方からぐわっと込み上げてくるものがあって。俺だってあきらに伝えたい。大好きだよって気持ちが、ちゅーするときの柔らかい感触だけじゃなくて、ちゃんと言葉でも相手の心臓に届けたい。本来だったら、俺の方が器用なはずだし。

絶対いける…!そう確信して、次の息継ぎのタイミングを測る、…けど。

う「んっ……ん、っ……ぁ、す…〜っ、ん!んん!」

さ「ん、…ん、……は、可愛い、好きよ……んっ」

あきらはタイミングよく滑り込ませて言ってくるのに、俺が口を開けばすぐに塞がれる。「すき」の一言はあきらの口の中に吸い込まれちゃって、不発に終わって悔しいのと、それでもやっぱりちゅーは気持ちいいのが混ざり合って複雑な気分。耳にはずっとあきらの甘い声が響いてるし…。

う「はぁっ……は、…んっ…ぁ、あき、らっ…ん」

さ「ん……っ、どしたん?ぁ〜…ちょっと苦しかった?ごめん、抑えられんくて」

う「や、それは別にいい…っていうか」

口元に手を当てながら、申し訳なさそうに俺を見つめるあきらにきゅんと胸が疼く。真っ先に俺の心配してくれるところ、抑えられないほど俺を求めてくれるところ、…へへ、きゅんなんていうレベルじゃないかも。

さ「なんか言いたそうにしてた、…やんな?」

あきらの言葉を噛み締めていたけど、はっと気づく。目の前にはくりっとした目が不思議そうに俺を見ていた。…どうしよ、確かにあきらに直接気持ちを伝える時間はできたけど、待ってくれてるけど!俺がやりたかったのは、ちゅーの間に「すき」だとか言ってのけることだ。こんな風に真剣に聞かれたら、意識して顔に熱が集まっちゃう。

う「え、えと…」

さ「言いにくいこと?ちゅー、…がっつきすぎてもうたかな」

う「っ、それは違う!」

言い淀んでいたらどんどん変な風に誤解されてしまいそう。んむ…これは腹を括るしかないか…。

う「……ぅ、あ、ぅ……」

さ「ん?」

う「〜っ、………ちゅー、して?」

さ「へ?」

う「ほら早く」

ぽかんとしたままのあきらが、一回ちゅうって俺に口付けた。離れていく唇。まだ不思議そうにしてる、あほ面。

う「……すき」

えいって今度は自分から塞ぐ。何回も口付けたから、しっとりと湿っていて気持ちいい。離れるのもなんだか名残惜しくて、小さくちろ、と舌で舐めてみた。

う「…これがやってみたかった、だけ」

思ってたのとちょっと違うけど。もっとあきらみたいに余裕がある感じでやりたかった。「すき」って言うのも緊張して声小さくなっちゃったし…うぅ、何年付き合っても、結婚しても、こういうところは変わらない。

そしてそんな俺が大大大好きな彼も、ぜーんぜん変わんないみたいだ。

さ「め、めーーっちゃ……かわえ〜〜〜っ!!」

がばっ!って抱きつかれて、お熱いハグ。ぎゅぎゅぎゅうって締めつけられて圧迫感はすごいけど、全くもって痛くない。こういうとこ、ほんとすごい。

あきらは俺のやること為すこと全部「可愛い」で済ませるから、本当はそんなに思ってないんじゃない?って勘繰っちゃったこともあった。けど、一回口に出してみたら真顔で「俺のストライクゾーンがうらさんなんやと思う……どストライクってことやね…」って言ってきたから安心っていうか、正直ちょっと引いた。

さ「んふふ〜、それがやりたかったん?かわええなぁ、ほんま」

う「ふん、俺はどうせあきらみたいに上手くできないけど!」

さ「何いじけてんのぉ〜?かわい」

頭をゆっくりゆっくり撫でられて、子ども扱いされてるのがむかつく。でもこいつ撫で方上手いんだよな。だから仕方ないって自分に言い訳して、その大きい手に擦り寄った。

さ「そんなに『すき』って言いたかったん?んふふ、わたるからの『すき』は破壊力抜群やわぁ」

う「…あきらさん、すきだよ〜?」

さ「うわ破壊力やば」

撫でる手がぴくって止まったから、本当に衝撃くらったのかなって思うとくふくふ笑いが込み上げてくる。たった2文字で、どきどきしちゃうあきらかわいい〜。人のこと言えないけど。

う「どれくらい破壊力あった?」

さ「俺の中に地球があったら、それ破壊されてるな…」

う「例えが意味わからなすぎる」

うぅん、かなりくらってるみたいだ。まだ止まってる手を掴んで無理やり撫でさせると、ふわふわとまた髪の毛に柔らかい感覚が乗った。そぉっと離してみても、…ふわふわ。よし、正常に動き出した。

さ「可愛いなぁ…なにこの人ほんまに」

う「あきらさんのパートナーです」

さ「うっわ最高」

ちゅっちゅっとあきらの気持ちがいっぱい詰まった口づけをほっぺたで受け止めて、んへ、と口角が緩くなる。

さ「そんなことまで言えるようになっちゃったん?新婚の時は恥ずかしがってたのに」

くりっくりの瞳を覗き込んで、その近くにキスをした。びっくりして目を瞑ってたのが可愛くて、閉じてる瞼にも唇を落とす。確かに、俺結構大胆になったかもなぁ…昔に比べて。

う「誰かさんが人に会うたびに『俺のパートナーです!♡』って紹介してくるからじゃねーの」

さ「んふ、慣れちゃった?」

う「…急に言われたらどきっとはする………んんっ」

ぼそぼそと呟くと、顎が掬われて唇と唇が引っ付く。目を見開くと、ぐっと後頭部に力が加わってもっと深くまで繋がった。…こいつ、いつの間に後ろの方に手置いてたの。

う「……ん、…あきらは昔からせっかちさんだよね…っ」

さ「…余裕ないもん。かっこ悪いけど、好きやから余裕なんてあるわけないやん、無理やって…」

赤い顔が近づいて、ちゅ、ちゅ、と俺の思考を奪っていく。口付けるたびに、もっと、あきらが好きになる。

う「んっ………、は、…っ、今…あきら…、すーっごいかっこいい顔…してるよ」

芯から熱くさせるような視線。少し荒々しい手つき。じんわり出てきた汗に、どろっと溶けたような甘い声。あきらが俺に夢中になればなるほど、色気が増して一気に惹き込まれる。それが "余裕がない" 状態なら、かっこよくないわけないじゃん…?

さ「わたるはね、…めーっちゃかわええ顔してる。食べちゃいたいくらい」

「口開けて」って耳元で囁かれて、自然にその命令に従ってしまう。舌をんっと出してきたあきらに合わせて、自分も舌を出すと、つん、と触れ合った。

う「ぁ、…んっ…ん……ぁ、」

さ「ん…んん……は、」

キスにも満たない、舌先でつんつん触れ合うだけ。もどかしいような気もするけど、感じる刺激は強くて体がびくびく震えた。おかしいね、触れてるところはほんとにちょっとなのに、こんなにもあきらに翻弄されてる。

う「んっ……ぁ、ぁ、っ……、ゃ」

さ「……ふ、……ん、ぁ…」

だんだん距離が近づいて、舌同士がくるっと絡む。触れ合う面積がさっきより大きくなって、ぴちゃ、と唾液の音が鳴って恥ずかしい。

れろり、と這うあきらの舌は熱い。きっとこのまま、ゼロ距離になって深い深いキスをされるんだ。そう思うだけで腰が震えた。自然と、袖を掴む指先の力が強くなる。

ちゅ、ちゅ、と水音と共に、ふわりと香ってくる優しい匂い。同じシャンプーの匂い。香りがお揃いになって、最初の頃はそれが少しだけ…ううん、結構恥ずかしくて、誰かと喋るあきらを見るたびにそわそわしていた。俺たち同じ匂いだって気づかれたらどうしよう、なんて変なことを。

舌先を絡めあいながら、いっぱいに俺たちの匂いを取り込む。今では、1番落ち着く匂いになった。ほっと息をつける、そんな居場所みたいな香りだと思えた。

う「……ぁ、……んっ、ぅ…っんん、んぅっ…」

ふにり。唇と唇が柔らかくくっついた。まだゼロ距離には少しだけ時間がかかりそうだったけど、なんだか待ちきれなくて俺から距離を詰めた。舌をぐんっと奥まで押し込むと、全部が全部あきらと触れ合ってしまって、自分でやったことなのにやっぱり腰がびくびくと揺れた。

さ「は、…ふぅ…ん、ん…ぁ、んっ……」

そんな俺の腰をぐっと掴んで、まるであきらのターンだとでも言うように、ぐちゅぐちゅと口内が掻き回される。…興奮、してんのかな。俺が珍しく受け身じゃないから喜んでくれたのかも。そんなふわふわした思考ごとぱくりと食べられて、大切に転がされる。

熱く、長く、深いキス。ここまできたら離れるのも名残惜しくて、このまま窒息しちゃってもいいかなっておかしな考えが頭をもたげる。それくらい気持ちよかったけど、柔らかい唇にむに、と押しつけられてから離れてしまった。

う「は、………ぁ……っ、はぁ…っ」

さ「……ふぅ…ぅっ……」

目線が、絡まり合う。物理的な距離は確かに離れたのに、まだ繋がってるみたいだった。

さ「はー……今日、ほんまやばいかも…」

ぽつりと呟かれて、もう一度おまけみたいにちゅっと軽く口付けられる。そのまま、耳元に口を寄せて「…もう脱がしていい?」って吐息たっぷりに囁かれた。

今は何もされてないのに、口を開けたら変な声が出ちゃいそうでこくこく、と必死に頷いた。もう脱がしていい?だって。俺は早く直接触れたかったよ、なんて言ったら卒倒するかも、こいつ。

そんな失礼なことを考えているとは知らず、あきらは俺の頭を一回撫でてから服に手をかけた。パジャマのボタンがひとつ、外れる。

う「…ぁ、」

さ「ん?」

う「や、…やっぱ、俺が脱ぐ、自分で」

2つ目のボタンに添えてある手を上から包み込んだ。…脱がしてもらうのって、やっぱり恥ずかしい。こんなに一緒にいるのに慣れてないことばっかり。ボタンがぽろっと落ちるように外されて、ちら、と見えた自分の肌色にぴゃっと心が跳ねちゃったの、…はずかしい。

さ「なぁんで!」

ぜーったいこいつ揶揄ってる。俺の顔を覗き込んで、楽しそうに声を弾ませてる。こういうとこあるよね、あきらさん。ちょっとSっぽいっていうか、虐めるの結構好きそうっていうか、俺のこと可愛いって思ってるんだろうなっていうか。

う「…なんでも」

さ「なんでも?わがままさんやなぁ」

くすり、と大人っぽく笑って、するりと俺の手から抜けられる。俺を黙らせるように、ちゅっておでこにひとつ残して。

さ「でも残念。俺もうらさんの服脱がしたいの」

ぽろりと、2つ目のボタンが落ちる。

う「…ぁっ」

さ「あーあ、外されちゃった」

低い、声。あきらの低音がお腹に響いて、ぞわっと快感が駆け抜けた。「…やっ、」なんて抵抗の意思を見せても、構わずぽろぽろと剥がれ落ちていく。恥ずかしくて見れない…!って頭の中では混乱しつつも、視線はあきらの指先にずっと吸い付いている。服の脱ぎ着ですら自分とは別の人にされているなんて、…まるで支配されてるみたい。

最後のボタンが外されて、たったそれだけなのに気づいたら呼吸が荒い。あきらがそっと顔を上げる。目と目が合った瞬間、少し驚いた表情を見せてからふっと笑われた。

さ「えっちな顔してる。…ボタン外されただけで興奮したん?」

う「〜っ!」

いじわる、じわりとあきらの顔が滲む。あきらは俺のほっぺたに手を当てた。手のひら、あつい。

さ「今日感度めっちゃ良さそうやん。手、きもちい?」

う「へ…?」

さ「気づいてないん?自分でほっぺたすりすりしてる、猫ちゃんみたいやねぇ」

…気づかなかった、びっくりして手からほっぺたを離すと、「んもう、寂しいやん」ってまた手がほっぺたにくっつく。そしたら、触れただけなのにぴくっと腰に甘く快感が響いた。や、ばい。あきらの指先ひとつひとつが、きもちい…。

さ「あはっ、まぁたえっちな顔しとる。ここも興奮してるもんな?」

すり、と撫でられたのは服の上からでもわかるくらい盛り上がってるところ。まさかそんな性急に触られるとは思ってなくて、「んんぅ…」って気の抜けた声が漏れる。…うわ、はずかし。あきらのせいだ!ってじとっと睨むと、何を思ったかにやにやしながらこっちを見て。

さ「あっごめんごめん、先にこっち触って欲しかったね?」

ほっぺたとあそこに添えられていた両手が同じところに向かって伸びていく。あきらの狙いに気がついた時には、きゅっとそこが摘まれていた。

う「ん、ぁっ!」

びくん、と跳ねた腰を抑えるように、あきらが体勢を整えてまたきゅっと摘んできた。

う「あぁっ…!」

さ「きゅっきゅってされるのきもちいなぁ。わたるの乳首、摘まれて嬉しそうにしとるよ」

う「ぁ、ばか言うなぁっ……ん、ひゃっ!ぁ、んぅっ…!」

さ「ばかやないで。ほら見て、ぷっくり腫れてきてる。きもちい〜って嬉しくなっとる証拠やろ?」

あまりの刺激にぎゅっと瞑っていた目をそぉっと開けてみる。あきらって、昔からこういうとこずるい。優しく諭すみたいに俺のこと誘導して、あほのくせに気づいたらいつもこの腕の中。

開けた視界には、真っ赤な乳首が見えた。先っぽをすりすり…って擦られて、腰が揺れる。見れば見るほど摘みやすそうにコリコリになっていて、もう目が閉じられない。こんな小さな部分を弄られただけで、体の全部があきらの支配下にあるみたいだ。

う「ん、うぅ…っ」

さ「こーら、お口閉じんの。…真っ赤な乳首見て、恥ずかしくなっちゃったん?」

う「ちがっ……、ぁ、うっ」

さ「ほんまかなぁ」

う「やぁぁっ!ふ、ぁ、…んんっ、ぁ!」

先端がぎゅぅぅって押し込まれて、思わず大きい声を上げてしまった。弱いところなのに…!はふはふ、と呼吸が苦しくなって、視界がぼやける。

う「あ、き…らっ…!!」

さ「んっふふ、睨まんといてぇ。わたるが強がるから、ちょっと素直にさせたくなっただけやん〜」

う「別に強がってない!」

さ「じゃあお口ちゃんと開けて、恥ずかしい声いっぱい聞かせて?」

う「へ、……っ、ん、ぁぁ……」

意地悪く口角を上げたあきらの手が口元に伸ばされて、くちゅ、と音が鳴る。ぐいぐいと口内に指が押し込まれて、無理やりにも口が開いてしまう。だめ、このままじゃ…。

う「ぃ、あぁぁっ!んっ、…ゃ、ひぁっ、ぁんっ」

ぎゅぅぅ、と摘まれた。その強い刺激に耐えられなくて、あられもない声が響き渡る。ゃ、俺おっきな声出しちゃってる…!いっぱいいっぱい、きもちい声、出ちゃってる…。

さ「じょーず。まだまだ頑張れるやんね」

楽しそうに笑うあきらに違和感。あ、これやばいかも。そう思った時には、あーん、と口を開けている彼の姿が見えた。

う「あぁぁっ…!!んゃ、あき、…ぁ、ああっ!んぅっ、だめ、あきら、…ぁ、んんっ!」

口内に指を残したままだから、相変わらず喘ぎ声が隠されることもなくそのまま俺たちの耳に響く。さっき指で刺激されたのとは反対の乳首を、ぺろりと舐められたり、ぢゅぅっと吸われたり。勝手に動き回る舌に怒りたい気持ちも、全部快楽に塗り替えられていく。

う「ん、ぁ〜っ!んん、ひゃ、ぅっ…、んんぅっ!ぁ、ぁ、やぁぁっ」

さ「…おいし。赤ちゃんできたらさ、わたるの乳首独り占めさせんといてな?っていうかさ、わたるってミルク出るんかなぁ」

う「ぁ、んぅっ…!んぅぅ〜っ!」

さ「あれ、軽くイってたん、?んふ、かわい」

あきらの言葉の意味を理解できないまま、びくびくと体を震わせる。腰に力が入って、お腹が脈打ってるのがわかる。意識がふっと浮上した時には、すり、と頰に優しい手が乗っていた。

う「ぁ、…」

さ「あー、かわええ人起きたぁ〜」

ほにゃん、と柔らかく笑われて思わず自分の口角も緩む……って、違う!こいつ、勝手なことしやがって!

う「可愛い人とか言うな!」

さ「なぁんで!乳首でイっちゃうのかわええやん」

う「うるさいうるさいぃぃ…」

さ「うるさくない〜」

う「んひゃっ!も、あきら…!!」

さ「ん〜?」

俺の乳首に舌を這わせて、下から見上げてくるそのアングル。…悔しいけど最強に顔がいい。俺の夫、顔良すぎる…でも!やってることは全然良くないから!!

さ「わたるはかわええよ〜」

う「んんっ…!ん、ぁっ、ぅぅ…っ!!んゃ、あきら、…ゃ、や、んっ…!ぁ、う…〜っ!」

ぴちゃぴちゃとわざとらしく音を立てながら、口の中でころころと遊ばれる。恥ずかしいから顔の前に持ってきた腕も、びくっとしちゃうせいですぐに顔が見えてしまった。

う「ぁ、ぁんっ…!ぁ、〜っ、あき、っ、んっ、乳首、やだ…んっ…ぅ、ぁ、ちゅー、しないでっ…!」

ちゅっちゅって啄むように俺の乳首とあきらの唇が触れる。赤いのと、赤いのがくっつくその扇情的な光景に、頭がくらくら、心がどきどき、…あきらのせいで、うるさい。

う「ぁ、ぁ…っ!」

さ「…今度こそ、触ってええ?」

すりすり、といつの間にかズボンが脱がされていて、あきらの左手が俺のあそこに添えられている。質問に答えるより先に、「んぅっ…!」と小さく腰が浮いた。

さ「あは、元気やん〜。乳首と一緒にしてあげるな?♡」

う「〜っ…!?ん、…ぁ、んぅっ、っっ!」

下着の上から、ずりずり〜っとゆっくり擦られて、背中がびくん、と1番大きく動くのがわかる。ぁ、これだめなやつ…!はふ、と視界が滲む。思わず、目の前の頭をぎゅっと抱きしめた。

さ「…!ん〜、熱烈ぅ♡♡」

う「うるせ、……ぁ、ゃっ……んぁっ!はぁっ…ん、ぅぅ、…っ!」

やばい、これ…!上も下もたくさん弄られて、体の力がどんどん抜けていく。あきらは変なところ器用だから、舌も手のひらも俺が1番反応するところを刺激してきて、ほんとに逃げられない。

う「は、…ぁぁっ…!ん、んっ……あき、…っ、あぁ!」

さ「もうパンツ湿ってきたで?わたる、乳首大好きやもんなぁ」

う「言わないで…っ、ぁ、…」

あきらに文句を言おうと少し視線を下げた時。彼の言っていたものが見えてしまった。俺、ちょっと触られただけなのにあんなに色変わっちゃってる…。

さ「んふふ、かわいいね」

目が離せなくなって、頬が熱くなって。あきらはそんな俺を見て、ぱち、と瞬きをしてから…はく、と吐いた俺の吐息を丸ごと包み込むようにキスをした。

う「んぅ……っ!」

だんだんと唇に圧をかけられて、いっぱいいっぱいになった時に、さわ、と乳首が触られる。アソコに添えていた手も、また動き始めていた。

う「ぁ、…んぅっ…んん、……〜っ!!」

だめだ。どこもかしこも全部責められていて、どれもきもちよくって、わかんない。今びくって腰が跳ねたのはアソコを優しく擦られたから?「ぁ、んぅっ…!」なんて恥ずかしい声が出たのは包み込むようにちゅーされたから?お腹の中がどくどくしてるのは乳首を捏ねられてるから?わかんな、だめ…これ、いっぱいいっぱい、ぁ、…っ、

う「んぅ、…ん〜〜〜っ!♡♡」

ドビュッ!

………くちびる、あつい。腰とお腹、ずっとぞくぞくして、胸は、じんじんしてて、きもちい…きもち、……。

ふわり、と背中に柔らかいものがあたる。自然と吸った空気がお腹の中に溜まって、それをゆっくりと吐き出した。あれ、……あれ、?

う「ぁ、き……?」

さ「はぁい、大丈夫?」

手を伸ばすと、ぎゅっと握り返された。上から見下ろされたから目を瞑ると、空気が震える。む、あきら笑ってるな?

さ「なにぃ?キス待ち?」

う「…だめなの」

さ「んふ、だめなわけないやん」

ちゅ、って小さく重なった。目を開けると、視界いっぱいにあきらの顔。

さ「思いっきりイっちゃったね、」

う「……」

さ「背中びくぅぅってのけぞらせて。そのままベッドに倒れ込む勢いやったから、びっくりしたわ。腕間に合って良かったぁ」

どうやらあきらが俺の背中とベッドの間に腕を滑り込ませて、ゆっくり寝かせてくれたらしい。こういう時だけ瞬発力があるんだから。

さ「今日やっぱり感度ええな。すごい気持ち良さそうやった」

う「かわいかった…?」

さ「ん?もちろん」

絶対絶対、そんなことはないと思うけれど。だってそうじゃん、成人男性が思いっきり体のけぞらせてイくところなんか、可愛いわけないじゃん。だけどこいつは当たり前みたいな顔して、俺だけを見てる。だいすきな、俺を見てる。

さ「めっちゃかわいかったよ」

あぁ、そうだ。

俺はこの人のすべてが欲しくて、俺のすべてをあげたくて。

好きすぎて泣いた日があったなと、ふと思い出した。

あきらside

下着濡れてるね、ごめんねって声をかけたら、「最悪最悪……」ってぽすぽす叩かれた。ちなみに全然痛くない。ほんまは濡れてるどころじゃなかったけど、そんだけ気持ちよくなってくれたんやと思うと、血の巡りが熱くなったように感じた。

う「はやく脱がして……」

さ「え、俺が脱がしてええん?」

わたるのことやから、自分で脱ぐと思った。自分の精液でぐちゃぐちゃになってる下着なんて、尚更嫌なはず。それなのに、わたるは俺が指摘してもすっと視線を逸らすだけで動こうとしなかった。

さ「わたる…?」

う「上の服もあきらに脱がされた…」

名前を呼ぶと、ぽつりと呟かれる。おまけにじとっと目線も送ってきて、「ズボンだって勝手に脱がされてたし、」と悪態づく。おぉ…。これは一見怒ってるように見えるけど…、

さ「そんで、脱がしてほしい気分になっちゃった?」

こくん。小さく、頷く。

ぅ、うあ〜〜〜〜〜っ!これは照れてるやつ、絶対!確実に!!きもちいのと恥ずかしいのとでいっぱいいっぱいになって、でも頑張って俺に伝えてくれようとしとるの、ほんまに可愛い。何やこの生物、言葉は素直やないのに動きが素直すぎる…。

思わず口を覆っていた手をゆっくり下ろして、わたるの下着に手をかける。腰を上げてくれたおかげで、そのまま下げることができた。

う「んっ…」

さ「んっふふ、」

う「…笑うな」

さ「んふ、ごめん」

隠しきれない興奮が目に見えて、やっぱりこの瞬間って嬉しい。わたるはいつも恥ずかしそうにして、今も少し涙目。あーもう、それがかわええのに。

う「……どうせお前もだろっ」

わたるは体を起こして、ずるっと下着ごとズボンを引き抜いた。

さ「きゃーっ!!」

う「うるさ…」

ふざけると心底嫌そうにされる。でも完全にふざけ切って叫んだわけやない、だってもう感覚でわかる、俺のアレ……。

う「おっき…」

さ「う、うるさいうるさいっ」

今度は俺がわたるを諌める側に回る。正直緊張してたから、勃たんかったらどうしよって思ってたけど…。わたるが敏感になってるように、…きっと俺も。

俺のアレをぽぉっと見つめていたわたるは、そのまま視線を俺の顔に向けた。熱っぽいその表情に、喉の奥が鳴る。

う「今日は、舐めてあげよっかな…」

さ「……へ、えぇっ!?」

珍しい…!!わたるから言ってくれるん、ほんまに久しぶりな気がする…!!だいたい頼んだらやってくれるけど、逆に言うと頼まないと絶対やらんっていうスタンスやったから。んふ、舐めてあげよっかな…やって、かわええ言い方するなぁ。

さ「ええの?」

う「ん、」

猫みたいにぺたんとうつ伏せになって、俺のモノをそっと触る。ぺち、とわざと自分の頬に当てて、少しだけすりすり…♡と動かすわたるが、ちらりとこっちを見た。

う「今日は、こいつに頑張ってもらわないとじゃん…?」

そのまま、俺とキスする時みたいに小さく口を窄めてちゅっと先端に吸い付いた。

……………ぅ。

う「ふへ、単純なやつめ」

さ「むりぃ……えっろ………」

ひどい。付き合い始めた時には、俺がやることなすこと全部反応してくれて真っ赤になってたのに。今では、俺の方が赤くさせられてる気がする。この人、なぁんでも成長スピード早すぎるんやもん。

大きく口を開けて、俺の先端が吸い込まれていく。わたるの口内はあったかくて、口の中の空気でさえも俺を震わせた。

さ「はぁ……っ…、ふ、…」

う「んっ…… ん゙、ん……」

きもち〜……。頭の中に浮かぶのは、そんなあほみたいな感想だけ。挿れてるときもそうやけど、快楽を与えられると途端にそれしか考えられなくなる。きもちい。かわいい。きもちい。すき。そんなふわふわとした気持ちに侵されて、じんわりと思考が奪われていく。

さ「んっ……ぁ、んんっ……ん、ん…」

俺は結構喘いでしまう方で、半開きな口から勝手に音が流れ出てしまう。さっきのは、いつもより少し上擦った声。最初はわたるに聞かれるのが恥ずかしくて我慢してたけど、この人どんどん上手くなるから単純に我慢できひんくなった…。

それに、俺が反応するとめっちゃ嬉しそうにするんよね。口角が少し上がって、一層とろんってした瞳を見せて。そんな姿が可愛くて、結局恋人からの愛撫に従順になってしまう。どっちにしても、わたるに対してはやっぱり単純やな…俺。

さ「〜っ…!は、っ……わたる、っ……!ん、ぁ……そこ、…っ、く、」

太ももがぴくぴくと痙攣する。くびれたところをれろり、と執拗に責められて、さすがに腰が浮いた。…おれがそこ弱いってわかっとるやろ。んぅ…わざとか。なんでも覚えてるわたるは、俺より俺の体のことを知り尽くしてしまっているような気がする。

う「んっ…んん、んぷ、…ぐ、っ……… ん゙」

俺の反応を見て、機嫌を良くしたわたるはもっと奥に押し込むように飲み込んだ。ぬぷ…ぬぷ、とゆっくり動かれるともうたまらん。間違えてわたるに力を加えてしまわないように、奥歯をギリッと噛み締める。

う「 ん゙んっ…、ん、ぅ゙、…ん、んぐ、…」

さ「く、っ…、ぅ、あ……っ、……んんっ…は、!」

やば、…ほんまに、きもち……っ。ちょっとずつ、カクカクと腰が揺れて、その度にわたるの頭もカクカク揺れる。あ゙〜〜かわええ、俺のために一生懸命しゃぶってくれてんの、ほんっまに腰にクる…!

ぼぉっとパートナーの痴態を観察していると、綺麗な形のお尻が目に入った。俺のを奥に飲み込んだせいで、ぐぐぅっと上がって、突き出す格好になっとる。余計に猫っぽくなってて、なんやろ…えろかわええ。

う「ん、…ん、ふぅっ…!!」

気づいたら手を伸ばしていた。さらっとお尻を一撫でして、そぉっとわたるの敏感なところを探す、…あ、ここや。くるくると周りをなぞってみると、きゅぅ、と口が窄まった。

さ「んっ…!」

う「ん、ぷ……んっ、」

わたるの反応がダイレクトに俺にも伝わって、一層思考が覚束なくなる。はぁ…かわいい、きもちい。もう一度お尻を撫でてから、手を伸ばしてボトルを取った。今日のことは何日も前から計画してたことやから、いつにも増して準備はばっちり。ローションも、いい香りのちょっとええやつを使うことにした。

わたるは、生理はくるのに愛液は出ない。痛みばっかり与えるその体質は、やっぱり彼にとって散々嫌気がさしてるものなんやろう。やからこそ俺は、わたるに優しくない体に目一杯優しくしたい。

ボトルから液体が流れ出て、とろりと手を濡らす。くちゅくちゅと音を鳴らしながらあっためて、ちらりと下を見た。

…えっちぃ。思わず出てしまいそうになった情けない声を必死に喉の奥へと押し戻す。俺のモノを柔らかい舌がつつつ、となぞったり、先端にちゅって吸い付いたり、手でもたくさん擦ってくれたり。さっきまでもほんまに気持ちよかったけど、視覚情報としてこう…いろいろ見てしまうと、また違った気持ちよさが俺を襲う。

この小さくて大好きな人が、俺のために一生懸命奉仕してくれてる。男にとっては、きっときっとこの上もなく幸せなことで、最大の快楽を引き起こすもので。

う「ん、…ぁ、きら…?」

じぃっと見つめすぎたかな。わたるが不思議そうにこちらを見て、首を傾げた。あーあ、その角度…俺のちんことわたるのほっぺがごっつんこしちゃってるやん…。

さ「めっちゃ気持ちええなぁ〜って。ありがとうね、」

正直むらむらしてる内心は置いといて、にっこり微笑む。嬉しいもん、やっぱり。お礼と謝罪は思った時に伝えなきゃって、そう思ってるし。

わたるは「へへ…」って笑って、ちゅぅ、とサービスまでしてくれた。びくり、と律儀に震えた俺のモノにわたるがまた笑う。

さ「ね、もうちょっとだけ咥えてもらっててもええ?」

お願いすると、素直にぱくっと先端を飲み込んでくれる。あ〜、…支配欲やば。じわじわ襲ってくる満足感と、もっともっと夢中になってって思ってしまう飢えた思いが、浮かべてるはずの微笑みを少しだけ崩した。

う「んぁ……ん、」

わたるがじぃっとこっちを見つめてくる。あきらのお願い、ちゃんと聞けたでしょ?えらい?って問いかけてるのが顔でわかった。んふ、子どもみたい。褒めて褒めてってアピールしてくるの。

さ「ん、…かぁわええ」

頭を撫でようとして手を伸ばしたけど、今思えば手のひらはローションでべたべたなんやった。これから汗やなんやらで濡れちゃうにしても、これはあかん。予定を変更して、手の甲で頬をなぞる。きゅっと目を細めて、嬉しそうにしてくれるのはめっちゃかわええのに、俺のを咥えてるせいで頬がぼこっと膨らんでるのがえろい。すりすり、と指を何往復かしてから、お尻の方に手を伸ばした。

さっき見つけた窪みに指を添えて、入口を弄る。くちゅ、と音が鳴って、きゅ、と締め付けられたのを見計らって抜く。また少しだけ挿れて、…っていうのを繰り返していると、ほら。ふりふり、とお尻が揺れるようになってきた。

う「ん、…っ、ふ、…ぁ、んっ…」

指をきゅっとお尻で締め付けるたびに、口でもきゅっと俺のを締め付けて、ほんまに従順で可愛い。俺の脳も、わたるのお尻を弄ると自分も気持ちよくなれるって勘違いしそう。それくらいに、触感と快楽が繋がっていた。

さ「く、っ……ん、んん…」

少しずつ、少しずつ指を深くに埋めていく。俺の指の動きに合わせて、わたるのお尻も上にいったり、下にいったり。

クチュクチュクチュ

う「ん、…んぐ、っ…ん、ん、ぁ、ゃんっ…!」

さ「は、…っ……」

う「ぁ、ぁ、う、……んぷっ、…ん、! ん゙、ん、…っ!」

さ「…わたる、っ」

わたるの口はもうお尻に突っ込まれてる指の振動で動かされてるようやった。ガクガク、って上下に揺れて、…ついに、ぽろっと口からモノが外れる。

う「あぁぁっ、…!ん、ゃ、っ!ぁ、…っ、はぁ、んぅっ…!」

さ「…っ、口外れてもうてるで、?」

う「ん、は、…っ、ぅ、…んんっ!ん、ゃ、…!んぅっ、ぁ〜っ!」

俺の声が聞こえんみたい。とろん、と瞳が溶けて、頭がガクンと落ちる。ずりずりと指から逃げるように動いて、俺の膝に丸まった。…のを見て、疼く胸。

さ「ははっ、…捕まえてもらいにきたん?」

グチュグチュグチュッ!

う「ぁ、あぁっ…!!ん、ひゃ、っぁ〜っ!!ゃ、んぅっ、だめ、っ、ぁ、!きもち、ぁ、っ!ぅ、んっ!」

上から押さえ込んで、逃げた分もっと奥に指を挿れる。この長い付き合いで、わたるのええところなんかわかりきっとる。的確にソコを突いていくと、びくびく、と震えて、手繰り寄せるようにきゅっと俺の服を掴んだ。

う「ん、んっ…!んゃ、ぁ、ぅっ!は、はぁ、〜〜〜っ!ぁ゙、ん、ぅ、っ!」

さ「こら、逃げんな。…きもちいやろ?いーっぱい、欲しくなっちゃうやんな?」

う「ぁ、ぁ、…っ、あき、らっ…!ぁ、んぅっ!ゃ、きもちぃ〜っっ!そこ、ぁっ、!ぁ、!とんとん、きもちぃっ、の!ひゃ、ぁぁ〜〜っ!!」

さ「かわい……….ん、かわいい、すき」

俺の腕の中で収まってしまうこの小さい体が、こんなにも愛しい。何回も抱いてきたけど、もっと知りたい。まだ足りない。彼自身も知らないわたるを見つけるたびに嬉しかった。ますます好きになった。…子どもができたら、もっといろんなわたるが見れるんかな。

さ「…〜っ、」

左手で柔らかい髪の毛を撫でる。ドライヤーでふわふわになるように乾かしていたはずの髪の毛は少し汗ばんでいて、くるり、と俺の指に巻きついてきた。

反対の指先は激しく、熱く彼を愛しているのに、アンバランス。まるで、不安定な恋みたい。

う「ん、んぅ〜〜っ!ひ、ぁっ…!ん、ふぅっ…ぁ、っあき、…〜っ、!」

さ「んふ、奥きゅうきゅうしてる。撫でられるの、嬉しいん?」

う「ひゃっ、…んむ、!ん、ん……ふ、ぁっ……ぜん、ぶっ……!ぁ、んぅっ…!ゃ、うれし…あきら、ぁ…」

さ「…わたるのその声、大好き」

たまらなくなって、くい、とこちらに顔を向かせる。俺のせいで生まれた雫が、ぽろ、と太ももに溢れ落ちた。引き寄せられるように顔を近づけて、…ぱちり、と目が合って。

だいすき。もう一度そう伝えるように微笑んで、ゆっくりと唇を重ねた。

う「んぅっ、……ん、ん…ぁ、…ん〜…ん、はぁ、ふ、んっ…んゃ、んぅ…」

さ「ん、…ぁ、…ん、…んん、…」

顔が反対の方向を向いとるから難しいけど、だからこそたっぷりと時間をかけて舌を絡め合った。とろとろに溶けてしまった声の味は、ものすごく甘い。上から覆い被さると、全部全部味わい尽くせるからすき。

やっとの思いで唇を離すと、完全に力が抜けてしまったみたい。ぽぉっとした瞳で俺を見つめて、きゅっと握っていたはずの指先ももうふにゃふにゃ。そっとその指を絡めてみる。ん、…あつい。

さ「わたる、」

う「……」

さ「わたる、大丈夫?」

まだイってないかと思ってたけど、うぅん…この反応の悪さはもしかして、出さずに軽くイったんかなぁ。そうやとしたら、ほんまに可愛いし、えっちや。思わず口角がにんまりと上がる。

さ「フェラもほぐすんもキスも…って、刺激強すぎたやんな。ちょっと休憩しよか」

そう声をかけて、わたるの頭を膝から下ろそうとした時、さっきまで力が入っていなかった指がきゅぅ…と俺の指を絡め取った。

さ「わたる…?」

う「ゃ、いかないで……」

小さい声。細まる瞳。相変わらず弱いその指先。向けられた思いも、全部が全部か弱くて、儚くて。大事に包み込むように、誰にも見せないように、もう一度上から閉じ込めた。

さ「ちゃうで、この体勢しんどくないんかなって思っただけ。ずっとそばにおるよ」

言い聞かせるように指をなぞる。気持ち良くなっちゃったから、不安定になったんかな。それとも、甘えてるだけ?何にせよ、嬉しいことには変わらん。求めてくれるのはいつだって嬉しい。…ん〜、欲を言えばいつでも求めて欲しいけど。

さ「頭、動かすな」

そう声をかけると、こくん、と小さく頷いてくれた。膝枕はまた別の機会にやってあげるね。

う「あきら」

さ「ん〜?」

わたるの隣に寄り添うように寝そべった。体を向けると、目の前に可愛い顔。俺が溶かした、俺だけの、かわええ人。

う「前にさ、…すっごい前だけど、赤ちゃん欲しいって泣いたこと、あったじゃん」

さ「あったねぇ」

う「覚えてる?」

さ「もちろん。めーっちゃ嬉しかったから」

わたるが、俺のことが好きすぎて泣いてくれた日のことや。物覚えが悪い俺でも、ちゃんと覚えてる。思い出は、記憶にしっかりと残ってる。

う「あの時さ、おれ…赤ちゃん欲しいって言ったけど、それはちゃんと思ってたけど!でも、なんか焦ってて。あきらに、俺のぜんぶをあげちゃいたくて、そんで、受け取って欲しいって…ひとつ残らずお前のものにしてほしいって、そう思ってた」

さ「…んふ、うん」

思わず溢れ落ちた笑みがひとつ。それを目敏く見つけた彼は、じぃっと拗ねたように見つめてきた。

う「なに笑ってんの」

さ「んふふ、ごめん。わたるって俺のこと、ほんまにめっちゃ好きやんってちょっと照れた」

う「…ほんまにめっちゃ好きだよ?」

さ「んも〜〜っ!!可愛くてしゃあないなぁ!」

きっと俺の首は赤く染まってることやろう。今度はわたるがくすくす笑って、「そんでね、」とこちらに身を寄せた。

う「今はほんとのほんとに、心の底から子どもが欲しいなって思う。あきらと繋がるための手段、じゃなくて。目的っていうのもちがうけど。でも、あきらと、まだ会えてない俺らの子どもと、3人で…繋がれたら。それって幸せだなぁって思うんだ」

3年前のことを思い出す。あの時のわたるは、____うらさんは、どこかちぐはぐに思えた。本気だよ、って言うくせに、瞳がゆらゆら揺れていて。なにを考えてるんかな、ほんまは俺になにを伝えたいんかなって考えてる間に、じわっと溢れ落ちていた。

俺も未熟で、溢れ落ちる前に間に合わんかったし、早く拭ってあげて、安心させなあかんのに、…かわいいって思っちゃったりして。

でも、今のわたるは違う。あの時よりも柔らかく笑って、まっすぐ俺を見つめてくれる。言葉が意思をのせて、そのまま俺に伝わってくる。

でも、やっぱり。

う「……んっ、」

さ「……俺も、同じ気持ち。3人で繋がりたい」

かわいい。ずっとずっとかわええ。伝えてくれてありがとう、の気持ちを込めて、ぎゅぅぅっと抱きしめた。

さ「ん〜…俺は既に幸せやなぁ。わたるとこうしてる時がすっごいしあわせ!」

君は嬉しそうな顔をして、「…ばかじゃん」と溢した。きっときっと自惚れやけど、俺の腕の中にいるわたるって、世界一可愛い。いやわかってる、この人はいつだって可愛い。やけどな、俺が1番彼を可愛くできる存在になりたいって思うねん。強敵は美容師のカズさん。

う「あきらさん、ぎゅー好きだね」

さ「好きなのはわたるやろ?」

う「ん〜っ?」

さ「ほら、好きって顔しとる!」

う「ふへへ」

こんな可愛い子はぎゅうぎゅうの刑や。わたるが身に纏ってるあったかい空気ごと包み込むように抱きしめた。しあわせって、ぽかぽかの日向ぼっこみたい。

う「あきら、そろそろ大丈夫だよ」

さ「ん、回復した?」

う「もーばっちり」

さ「絶対ぎゅーのおかげやん」

否定はせずにくふくふ笑うパートナーが愛しくて、もう一度だけぎゅって抱きしめた。「もうなにぃ?」って嬉しそうな感じがダダ漏れで、ついでにちゅーも寄越してやった。

ちらりとベッドサイドの引き出しに視線を移す。今日は、いつもそこにしまってあるものは使わない。わたると俺を隔てて、大事な恋人を守ることができる最後の砦。俺の、必死で死守した理性のかけら。やっとの思いで、使わない、という選択をしたんだ…俺たちは。

起き上がって、上からわたるを見下ろした。幾度となく見た画角やけど、やっぱり興奮してしまう。俺にすべてを委ねて、期待して見つめてくれる瞳のせいで、血が熱く巡る。

さ「…挿れるね」

う「ふは、声緊張してる」

さ「わたるやってちょっと足震えてるやん」

俺が指摘すると、わたるは口を尖らせて押し黙った。2人のどきどきが合わさって、痛いくらいにうるさい。

さ「…ほんまに、挿れるからね」

確認のためにもう一度言うと、わたるは少しだけいじわるな顔をした。

う「…好きなのに、いいの?」

『好きやから、めちゃくちゃにしたいって思うで。恋人にそんなこと言われたら、…もう、我慢できんくなる』

『でも、それ以上に大事にしたいって思ってる。で、その理由もやっぱり、好きやから、なんやで』

思い当たったのは、俺自身が発した言葉。…さすが積年のわたる。あの時にゴムつけたこと、ちょっとは恨んでるんやん。そう思うとちょっと気が抜けて、くすっと笑えた。まだにやにやしてるわたるに、そっと顔を近づける。

残念でした、俺の気持ちはずっと変わらないよ。

さ「好きやから、繋がりたいんやで」

伝われ、俺の想い。
ずっとずっと好きで仕方がない人に、どうか。

綺麗な翡翠を瞬かせたその人に、ありったけの愛を込めて微笑んだ。

わたるside

パンパンパンパンッ!

さ「は、ぁ……っ!ふ、…!!」

う「ん〜〜っ♡ぁ、んっ♡はぁっ♡ゃっ♡ぁ、ぁ、っ♡」

初めて、直接受け入れた。ずっと欲しくてたまらなかった大好きな人の全部は、重くて、熱くて、…やっぱり優しかった。

う「ぁあっ♡ゃぁ、〜っ♡…んっ♡ぅ、あ、そこ、っ♡うぅっ♡」

さ「ここ、…っそんなに気持ちええ、っ?」

う「ん、ぅんっ♡ぁ、っ♡」

さ「ちゃんと言ってっ……は、…聞きたい、から、っ!」

う「ぁうっ♡ん、っ♡…は、ぁぁっ♡ゃ、きもちっ♡きもちぃっ♡ぁ、ぁ、!♡ゃ〜〜っっ!♡ぐりぐりやぁっ!!♡」

さ「ぅ、…かわい、っ」

あきらの頬に汗が滲んでいる。それだけ俺に必死になって、熱くなってくれているのが嬉しい。きゅん、と締め付けちゃうのも仕方ないじゃん…全部、あきらのせいだもん。

さ「んっ……ふ、…ん、…っ、わたる、」

う「ぁっ♡ん、ひゃっ♡ぁ、んんっ♡…んっ♡んぅっ♡ぷは、っ…ぁ、っ、♡ん、んぅっ♡」

切羽詰まった声が聞こえて、一度ぎゅっと閉じていた目を開いた。近づく、顔。重なる唇に上手く対応できなくて、すぐにずれてしまった。

やだ、まだ離れていかないで…って思った瞬間に、すぐにあきらが迎えに来てくれた。今度はしっかり口を塞がれて、もう離れない。この圧迫感が、心地よくなったのはいつからだろ。

う「ん、っ…♡んぅっ♡んん〜っ♡…っ、は♡」

さ「っ、……んふ、ちゅーするとナカすご…っ」

う「は、?そんなこと、っんぅ、♡」

さ「ほら、締まった…っ、!ん、…は、かぁわい」

耳をくすぐられて、ぞくぞく快感が駆け巡る。熱い視線もずっと注がれてるし、どこもかしこもきもちいところばっかりだ。

ほんとに、こんな日が来るなんて。昔の自分に教えてあげたい、安心してあきらを信じていいんだよって。俺の大好きな人は、俺のことを幸せにしてくれるから。そしてきっと、俺自身もあきらを幸せにしてるんだ。

う「ん、ぁっ♡あきら、っ♡ん、んっ♡」

ぎゅうって絡まる指と指。好き、すき…っ、すきだなぁ。お腹の中から熱く広がってくる想いに比例するように、込める力が強くなる。

俺が名前を呼ぶと、嬉しそうに「わたる」って呼び返してくれる彼が愛おしい。ねぇ、俺たちの間には確かに愛があって、それが証明されたらすごく素敵じゃない?俺たちが抱えきれないたっぷりの愛を吸収して、どうかお腹に宿ってくれないかな。

う「あっ♡ん、ぅっ♡ぁ〜っ♡」

さ「んふ、っ……お腹びくびくしとる、触っていい?」

う「ぅ、ん……ぁっ♡」

さ「めっちゃ震えとるやん。えっち」

撫でるように触られるとくすぐったい。「触っていい?」って聞いてくる顔が、いたずらっ子みたいで可愛かったから思わず頷いてしまった…。さわさわとお腹に触れる手に、快感が高まっていくような変な感じがして、勝手に体が逃げようと動く。…あきらが逃がしてくれるわけないんだけど。

う「ん、ぁぁっ♡」

案の定、ぐ〜っ♡ってお腹が押されて、体全体がびくんっ♡と跳ねた。お腹が凹んで、その分ナカに入っているあきらのモノと密着しちゃった気がする。

う「は、…っ、はぁっ……!♡ぅ、あ…♡」

自然と乱れる呼吸に興奮してしまう。今だけは、___こういうことをしている時だけは、俺の体は完全なる彼の支配下で。呼吸もこうやってお腹を押されたらままならないし、キスなんてされたらままならないどころか止まってしまう。

う「ぁ、…んっ♡ふっ…あき、っら♡ふーっ……♡はぅっ、♡」

でも、俺はたぶんそういうのすき。そんな状態でも、あきらのこと…求めちゃうから。体だけじゃなくて、きっと心もぐちゃぐちゃになるくらい支配されてる。ぜんぶ、あきらだけ。

さ「おいで、わたる」

腕を伸ばされて、抱きついた。へろへろの俺の力なんて大したことないけど、それでもぎゅうぅって、できる限り。

俺がぎゅーしたいって気づいたのかな。それとも、あきらも俺を抱きしめたかった?どっちにしても嬉しい。思わずほっぺたが緩まる。

う「ん、っ♡んんっ♡」

さ「大丈夫?この体勢しんどくない?」

う「だいじょぶ。…うれしい、から」

せっかく首元にすんすんって鼻を近づけていたのに、ぺりっと引っ剥がされた。視界に入った緋色の瞳が、じわりと溶ける。

う「なにぃ?」

さ「かわええこと言う顔見てやろって思ってたら、…も〜、めっちゃ溶けとるやん…」

う「…だってきもちぃもん」

さ「んふ、そっかぁ。お顔ゆるゆるやで」

う「うるさい」

さ「ね、誰に溶かされたん?こんなんになっちゃうくらい、気持ちよーくしてくれたんだぁれ?」

じとっと睨む。すぐあきらは調子乗るんだから。機嫌良く笑ってるあきらに絆されちゃう俺も俺だけどさぁ。

う「…あき、ら」

さ「んっふふ」

嬉しそうな顔しちゃってさ。わたる大好き!幸せ!って顔に思いっきり書いてあって、こっちが恥ずかしい。

う「あきらこそ、すーっごく溶けた顔してるけど。誰に溶かされたの?」

今度は俺のターン。鏡ないから自分の顔は見れないけど、絶対あきらさんも俺とおんなじくらい、…いやそれ以上にゆるっゆるのでれっでれのとろっとろなんだから!

さ「うーん…」

う「え、そこ悩むの?」

さ「ん〜〜……」

大袈裟に首を傾げて、うんうん唸っているあきらは、そっと俺の腰を持った。いやまて、ちょっと…!!

さ「えっちでかわええわたるに、かなぁ♡」

パチュパチュパチュッ!

う「んゃっ♡ぁ、ぅ、ん〜〜っ!♡はぁっ♡ぁ、だめっ♡ゃ…っ♡これ、奥とどくぅっ…!♡」

頭の中がきもちいことで弾けてる。上下にずんずん突かれて、お尻からびりびり快感が伝わってきた。

う「は、ぁ〜っ♡ん、あき、んむっ♡ん、んんっ、ぁ、♡はぁっ♡おっきぃ、…っ♡ゃ、さっきより、ナカいっぱいっ♡」

さ「…ふ、っ………!そりゃあ、最愛のパートナーが…、こんなにかわええ顔してたらっ…、ん、っ」

この体勢だと、あきらの顔がものすごく近い。俺に興奮してくれてるその表情を独り占めできちゃう。あきらの瞳には、俺だけ。俺の瞳には、あきらだけ。この世界に2人きり。

う「ひゃっ♡ぁ、っ♡ぁっ♡んゃっ♡ん、ん…♡あき、ぁっ♡ゃ、ふっ…♡んんぅ、♡」

さ「はぁっ……ふ、…っ、かわいい、…っ。わたる、…かわい、…ん、すき。っ、ぁ!…くっ…すき、すき…」

ぎゅぅぅ、と抱きしめられて、あきらの体ごと揺さぶられる。はぁはぁ、と漏れる吐息が耳元で聞こえる。どくどく、と心臓の音を体で感じる。

幾度となくあきらの体には触れてきた。この体に愛されて、俺からも愛して、交わり合ってきた。でも、本当の意味で俺たちはひとつになったんだ。この体が、全身で俺を求めていて、俺に求められていて、…そして、新たな生命をつくりだそうとしている。

人間に備わった本能だけじゃない___俺たちで育てた愛が、この行為を衝き動かしてるんだってそう信じたかった。

さ「……っ、はぁ、…うらさ、…」

う「ん、っ♡へっ…?」

さ「うらさ、ん…っ、……だいすき、!」

きゅん、と胸が切なくなる。お前は俺からの「すき」は破壊力抜群って言ったけど、俺だって…大好きな人からの「だいすき」は破壊力抜群なんだよ。

急に「うらさん」なんて昔の呼び名を出したあきらの表情を見たかったのに、目の前の胸を押してもびくりとも動いてくれなかった。鍛えてる俺の体は剥がしやがったのに、変なところ強情でわがままなやつ。

でも、見なくてもわかる。大事な話をするとき、甘えたい気分のとき、周りが見えなくなるくらい、一生懸命になったとき。

それは、きっとあの頃の名残で。俺たちの胸の奥にそっとしまってある、お守りみたいなもの。

う「……さかた」

今となっては、俺の名前でもある「坂田」。でも、俺にとっては特別で、たった1人しかいない大切な人の名前なんだ。

う「さかた、…っ、だいすき!」

抱きしめた体が大袈裟に揺れる。届いた、…伝わった。好きと好きが出会って、混ざり合っていく。そうして、ひとつになっていく。

さ「…うん、」

頷きがひとつ。もっと近くまで引き寄せられて、思わず「んぅっ♡」と喘ぎ声が漏れる。

さ「ふふっ」

う「…笑うな」

さ「かわえーなって思っただけ」

あきらの首元に顔を埋めて、匂いをいっぱい体に取り込む。知り合った頃から変わらない、安心する大好きな匂い。同棲したら俺にも移るかなって思ってたのに、そういうわけにはいかないみたい。でもいいの。こうやって、いつでも近くにいてくれるんだから。

う「さかちゃん」

さ「わ、それ久しぶりに聞いた」

う「ふふ、確かに。久しぶりに言った」

さ「やんなぁ。そんでなぁに?」

う「あのね、……おれに、赤ちゃん宿して?」

かちん、と固まったの、くっついてるからわかる。ねぇ、大好きな「さかた」だから、俺こんなにわがままになっちゃったんだよ。

近くにある赤い耳をなぞる。尖ってて、俺好みのエルフ耳に、「はやく、ちょーだい」なんて囁いた。

さ「〜っ!!うらさんって、…そういうとこほんっまにずるいよね…っ!!」

パンパンパンパンッ!!

う「あっぁっ、♡んっ♡ひゃっ♡ぁ、〜っ!♡ゃ、うっ♡んん♡んぅっ♡」

さ「……っ、ふ…」

う「ん〜っ!!♡はぁっ♡ゃんっ♡ぁ、ぁ、♡あう、♡ぁっ♡」

さ「は、…ぁっ…ぁ、…!」

う「ひゃっ♡ん、っ♡ぁ、あぁっ♡んっ♡あぁ〜っ♡ん、ぁっ♡」

落ちちゃいそうだから、必死になってしがみついた。爪が、ぐぐってあきらの背中に食い込む。申し訳ないけれど、それを気にする余裕もなくてぎゅっと目を瞑った。

う「ぁっ♡ゃ、♡んっ♡ぁ〜っ♡ぁ、ぁ、!♡あきらっ…♡ぁ、ぅんっ♡はぁっ♡あき、…〜っ♡」

さ「は、…っ……」

う「ぁ、ぁ、!!♡そこ、ぁっ♡きもちっ♡ぁ、んぅっ♡ひゃっ♡んっ♡んぅ、イっ…♡あぁっ!!♡イく、イっちゃぅっ…!♡」

さ「ふーっ…は、…!うん、…ふ、イって」

う「ぁ、うっ♡あっ♡はぁっ♡ゃっ!♡イっちゃ…っ!!♡ん、ん……っ、♡ぁ、っ♡……ぁ〜〜っっ!♡♡」

ドビュッ!

う「っ、…はーっ……♡は、…ぁ、…ぁ、♡ぁう……んっ!?♡ぁ、あぁっ!♡ゃ、っ♡ぁ、ぁ、!♡あき、っ…ぅ、んっ♡らめ、まだっ…♡ひゃぁっ♡」

まだイってたのに、抱え直されてさらに奥まで貫かれる。ナカに塗り込まれたローションが泡立って、ぐちゅぐちゅって恥ずかしい音が部屋に響いた。

さ「はっ、…!…ふ、…っ、ん、」

う「ん、んっ…!♡ぁ〜っ♡ゃ、あき、ら…っ♡ひぅっ、!♡んぅっ♡ぁ、!♡ぅ〜っ♡」

さ「…は、すき…、かわいい、っ…!ふっ…ぁ、すき、すき…」

う「はぅっ♡ぁ、んぅっ♡ぁ!♡ゃ、だめ、♡ぁ、んっ♡」

上擦った「すき」が俺の心をぐるぐると支配する。すき、すきだよ俺も。ずっとすき、だいすき。

イった余韻で力が抜けた体は、あきらにくたり、と引っ付いたまま。揺さぶられながら、触れるか触れないかの距離で肌に口づけた。雪みたいにふわりと溶けてしまう自己満足に、緩く口角が上がる。

う「ん、ゃ♡ぁっ♡ふぅっ♡はぁ、…〜っ♡あ、♡っ、ぁ♡ぅん…っ♡んっ!♡」

さ「ぁ、…!ぅ、んん…っ、は、きもち…」

う「ぁぁっ♡あぅっ♡ん、んっ♡はぁっ♡ん、ぅ〜っ!♡」

気持ちよさそうなあきらの声に興奮が高まって、またビクビクと体が痙攣する。息を詰めたような音が、耳元で聞こえた。

さ「あか、ん…っ、…は、イく、イきそ…っ!」

う「ゃ、っ、♡はぁっ♡あっ♡あきらっ♡んっんっ♡…ぁ、いっぱい、きて…っ♡はぁ、〜っ♡」

さ「は、…はぁっ…!ん、…ぁ〜っ、…でる、…はぁっ…!わたる、…わたる…!!」

う「んっ!♡んぅっ、!♡あぁっ、…ん、ひぁ、ぁ、」

さ「く、…ぁ、……ん、……あぁっ…!!」

ビュルルルッ!!

う「ぁ、ぁ〜〜〜っ!!♡♡」

ドビュッ!!

あつい。なにこれ、ナカにいっぱい…。今までもゴム越しに出されていたはずの液体が、こんなにも熱かったなんて。気持ち良すぎて、ゴムありに戻れなくなりそう…と危険なことをぼぉっとした頭で考えた。

う「ぁ……っ♡ん、♡」

息をどれだけ吸っても酸素が足りないみたいに、はくはく、と溢れ落ちてしまう。ほんとに、…いっぱい出されちゃった。お腹だけじゃなく、胸にまでじんわりとあたたかみを持った何かが込み上げてくる。

「ん、……ん、……っ」と悩ましげな声を出して、あきらは奥に奥にと腰を動かしてる。今までもそんな動きをされたことはあったけど、今回は本気で俺を孕ませようとしてるんだなって思ったら、ぞくり、と背中が震えた。だめだ、考えたらおかしくなっちゃうやつ。

ぐい、と目の前の胸を押してみる。さっきまでとは違って、それは案外簡単に離れた。

う「あきら…」

名前を呼ぶと、じゅくりと溶けきったような瞳と視線が絡み合った。絶対…絶対こいつ、今頭の中が子どもみたいな単純思考になっちゃってる。わたる、すき、かわいい、きもちいい____そんな単語がテレパシーみたいに頭の中に流れ込んできて、恥ずかしい気持ちになった。あきらの考えてることなんて、その視線でわかっちゃうもん。

目を瞑る。お互いに、何も確認なんてしてないのに、当たり前のように唇がくっついて、離れて、またくっついた。雰囲気、とは違くて。完全なる意志ってわけでもなくて。

きっとその間にある、お互いの欲望が俺たちをそう動かした…そんな気がする。

う「あのね、…おれ、この体勢すき」

さ「…知っとるよ」

う「ほんと?」

さ「ぎゅうってできるから。あと、顔見ながらできるし、キスもできるから、やろ?」

う「わかってんじゃん…」

少し口を尖らせると、あきらがくすくす笑う気配がする。腰に回っていた手が、ゆるりと頰に添えられた。

さ「なぁに、顔見られへんかったから拗ねとるん?」

俺のことが好きで好きでたまらないっていう、その顔。むかつくぐらいに好きで、大好きで、俺はまた口を尖らせた。

う「ちゅーもだし、…」

さ「なに〜〜そんなん言うてもかわええだけよ?」

俺が言えば言うほどでれっでれな顔になっていくパートナーにため息が出る。こんな甘やかし体質でいいんだろうか。いや逆にあきらが俺に甘えてんのかも。

まだくすくす嬉しそうにしているあきらからもう一度唇が落とされて、そのまま至近距離でおでこをこつんっと合わせられた。

さ「ごめんな?必死になってもて、…んふ、余裕なかったな〜」

う「いっぱいちゅーしてくれたら許す」

さ「ん、わかった。じゃあ先に抜くで」

あきらが腰を引いて、ずるっとナカから熱いものが抜けていく。…ぅ、少し寂しい、かも。慌ててぱっと腕を掴んだ。

う「まって!…まだ、いて」

さ「え、でもほら、中に出したから体に負担かかるやん」

う「それはそうかもだけど…〜っ、あともうちょっとだけ!」

ぐりぐりと頭を腕に擦り付けた。だっていきなりいなくなるのも、なんか嫌じゃん。体だって熱ったままだし、まだこの熱を共有していたい。

さ「ほんまに少しだけやで?」

う「うん。……んっ、ぁ、…♡」
 
ゆっくりはいってきたモノで満たされるのは、お腹だけじゃなくて。自然と口角が上がって、目の前の体に抱きついた。

う「ふへ、おかえり」

さ「〜っ、な、なんそれ、…えろ」

単純なやつめ。あきらの動揺している顔をばっちり記憶してから、さっきと同じようにぐりぐりと頭を押しつけた。今度は、いつも俺を受け止めてくれる広い胸に。

う「俺たちのところに…子ども、来てくれるかな」

ぽつりと呟くと、頭をゆっくりと撫でられた。魔法みたいに、その大きな手が気持ちいい。

さ「わからんけど、来てくれますようにって一緒に祈ろ」

あきらの優しい言葉に、こくりと頷く。

俺も、あきらも、初めてだから頼りないとは思うけど…それでも、これ以上ないってほどに愛するつもりだよ。愛し方も、愛され方も、…あきらが教えてくれたから。

だからどうか、俺たちのもとに来てほしいなぁ。

う「買っちゃった…」

手にした箱には、"妊娠検査薬"の文字。俺はごくりと唾を飲み込んだ。

子どもを作るという名目で初めて行為をした日から、何回か不定期に俺たちは愛し合っていた。中に出されるのが癖になっちゃうのがこわくて、普通のえっちも挟みながら俺たちのペースで。

でも、あれから結構経ったのになかなか兆候が現れない。やっぱり男同士って難しいのかな、とか、何かやり方に間違いがあるんじゃないか、とか。最初は本当にあったかくて、優しくて、好きの気持ちが溢れていたはずだったのに、だんだんと焦りが見え始めていた。

本当に、あきらとそういうことするのは気持ちよくて好きなんだよ。でも、やっぱり子作りえっちって気を遣うし、遣われてるのもわかるし。

焦って、できるだけたくさんそういう機会を設けたい俺と、俺の体を気遣ってペースを落とそうとしているあきらとの間で、少し考え方に溝ができているのはお互いに気づき始めている、とは思う。

時間が経てば経つほど思いは強くなっていく。子どもできたら嬉しいな、くらいだった気持ちが、あきらに俺たちの子を抱かせてあげたい、って明確に考えてしまうほどになっていた。

お散歩デートに行った時に、公園ではしゃぐ子どもたちを見て…ほんと、嬉しそうな顔するんだもん。子どもは特別好きじゃない、とか言ってたくせに、期待してるのがわかる。今頭の中で幸せな家族像とか描いてんだろうなぁ〜って…俺もよく妄想するから人のことは言えないんだけど。

そんな悶々とした日々が続いて、数ヶ月。最近、なんとなく調子が悪い気がする。些細なことでいらいらするし、ずっと眠かったり、いつもより食べすぎる時もある。それに1番は、生理がきてない!

これはもしかして、…もしかするんじゃない?最近の体調の変化をネットで検索してみたら、妊娠の初期症状だってことがたくさん出てきた。あんまり期待しすぎたら良くないとは思いつつも、こんなに待たされたんだからどうしたってどきどきが治らない。

あきらも体調を心配してくれているけど、ぬか喜びさせるのは嫌で、誰にも言わずにここまできてしまった。

とりあえず、検査しよう。いろいろ考えるのはそっからだって考えて、手元にはさっきドラッグストアで買った妊娠検査薬の箱がある。

家に帰ってから、いそいそとトイレに入った。あきらはあと少ししたら仕事から帰ってくるはず。もし、…もし本当に妊娠してたら、1番に伝えたくてこの時間に買いに行ったんだ。最近はいらいらするせいであきらに優しくできなかったから、今日こそは美味しいもの作ってあげたいなぁ。

うわ、緊張する……。相変わらずどきどきしてる心臓を落ち着けながら後ろ手にトイレのドアを閉めた。

まず箱から開けて…っていうか先にズボン下ろした方がいいか。でもそんな時間も惜しいから、箱を裏返しにして説明を読む。上手くできるかなぁ、なんて思いながら下着も下ろして、何気なくそっちに目を向けた。

う「……え?」

赤黒い血が、べったりとついていた。

う「ゃ、…うそ、なんで…?」

力が、抜ける。汚いってわかってるけど、すとん、と下着の上に座り込んだ。

どうして?生理なんてずっと来てなかったのに。何がだめだった?やっぱり期待、しすぎてた…?

ばかみたい。1人で勝手に浮かれて、ただ生理遅れてるだけなのにこんな検査薬買ったりして。結局開けることもなかった箱が、ぐしゃりと潰れる。

何してんだろ、俺。…ほんと何してんのかな。いらいらしてんのも、眠いのも、食べすぎちゃうのも全部妊娠のせいだと思ってた。俺が怠惰なだけじゃん。妊娠だって信じて、それに甘えてただけじゃん。今思えば生理前だったからか、…なぁんだ。

意識したら急にじくじくと痛みが走る。痛い、いたいよ…何も宿してないのに。このお腹には、なんにも無いのに…!

お腹を押さえて蹲ると、じわり、と下着に染みが広がっていく。たった1人だけのこの体を抱きしめた。虚しさって、寒いんだなぁ。

さ「ただいまぁ」

どれくらいそうしていたんだろ。あきらの気の抜けた声で、はっと我に返った。夜ご飯の支度しなきゃ。慌てて立ちあがろうとすると、くらり、とめまいが襲う。

う「はぁっ……はぁっ……!!」

苦しい。痛い。俺の体が、俺自身を責めたてる。

この出来損ないの体が、なんで子どもなんて。産まれてくる子が可哀想だろ…!!

う「ぅ、っ!おぇっ……!!」

さ「…わたる?」

この吐き気も、妊娠の初期症状だったら良かったのに。俺の弱いところしか吐かせてくれないなんて、ひどいよ。

う「うぅっ……!はぁ、…は、…ぅ、…!」

さ「わたる!そこにおるん!?」

どんどん、とトイレのドアが叩かれる。切羽詰まった声を聞いて、呼吸が浅くなる。

こわいから叩かないで。うるさくしないで。

さ「大丈夫?ここ開けて?」

俺の中に入ってこないでよ。不安を、掬い取ろうとしないで。

さ「わたる、お願い。心配やから…!」

こんな俺に、優しくすんなよ。

う「っ、そこまで言うなら…!」

がちゃり、とドアを開けた。倒れ込むようにトイレの中に入ってきたあきらが、惨状を見て息を呑む。

う「お前が助けてよ…!!この痛みから、不安から救えよ!なぁこの体治してよ……医療従事者なんだろ、治して……!」

無言で抱きしめてくる胸を、どんどんと叩いた。痛いだろ、こわいだろ…!…俺だってそうなんだよ。あきらにはわかんないかな。わからなくていいよ、こんな経験…大切な人にはしてほしくない。

う「たすけて、あきら……」

零れ落ちた涙が、下着に新しい染みをつくった。

あきらside

家に帰って、まず最初に静かやと思った。いつもこの時間なら、わたるが夜ご飯を作ってくれていて、包丁で野菜を刻む音がしたり、フライパンでお肉を焼いてくれている音がしているから。俺がご飯を作るときとは違って、わたるがご飯を作るといつもリズミカルな音に溢れている。

そんな音と、明るい光と、いい匂いと、あと。

『おかえりっ!』

大好きな、笑顔。

その全部が揃ったら、俺はもう1日の疲れが吹っ飛んで、ちゅーまでしてまうくらいには機嫌が良くなる。自分でも単純やなぁとは思うけど、やってこの全部当たり前じゃないやん。俺が掴んだ幸せやもん、浮かれたって多少は目を瞑って欲しい。

でも、今日帰ってきた家は音がしないし、電気もついてないし、何の匂いもしない。まぁ今までもこういう日は普通にあって、遠くまで買い物行ってるんかなぁとぼんやり考えた。

それか、…体調悪いとか?

ふと浮かんだ仮説に、荷物を片付ける手が止まる。最近のわたるは、どことなく本調子じゃなさそう。心当たりはある。…たぶん、子作りが上手くいってないから、やないかな。

最初はただ好きとか、気持ちいいとか、そういうのだけで良かったけど…ここまで中に出すことが続くと、さすがにわたるの体が心配になる。負担をかける側なのは俺やから、責任も感じるし。

最初に話し合ったみたいに、俺は2人だけの未来も素敵やなって思ってるから。わたるとなら、幸せになれるってそう信じてる。やから、あんまり俺自身は焦ってはいなかった。

やからこそ、俺ら2人の気持ちのズレを深刻に考えられへんかったんやと思う。

さ「わたる!?」

雪崩れ込むように入ったトイレの中は、悲惨やった。冷たい床に蹲るパートナー。独特の血の匂いが鼻を刺激して、…凹んだ箱が目に入った。

さ「これって……」

"妊娠検査薬"の文字を見て、そのままわたるへと視線を移す。彼はキッと俺を睨んで、助けて、と訴えかけてきた。

俺らは、幸せを願って子どもを望んだはずやのに。

何を、どこから間違えた…?

さ「わたる〜、雑炊できたよ。食べられそう?」

ソファに横にさせていたわたるに声をかける。分厚い毛布の上から、軽くぽんぽんと叩いてみると、ゆっくりとこちらを振り返ってくれた。

さ「起き上がるんしんどいかなぁ、ちょっと支えるで」

腰の位置に手を添えて、負担をかけないように体を起こす。良かった、めまいとかが残ってるわけではなさそう。

一回じぃっと瞳を見つめてみる。…思った通り、赤く腫れている目尻をなぞって、そっと頭を撫でた。そのまま手を繋いで立ち上がらせると、ぎゅっと手に力が加わる。

う「…ごめん」

それが、全部を引っくるめての言葉だってわかってたけど。

さ「んふ、大袈裟やなぁ」

俺は笑って、手を引いた。

席についてから、卵雑炊をよそってあげる。ちょっとずつなら食べられるかなぁ、と分量を調節してから渡すと、わたるは一口食べて「…おいしい」と呟いた。

さ「ほんま?良かった。食べられる分だけ食べてな、残しても大丈夫やから」

思ったより食べ進めているわたるを見て、ほっと一安心。自分の分もよそって、一口。うん、上手くできとる!

わたるの様子を眺めながら、静かに食事を進めた。やっぱり、生理中の彼は小さく見える、なんて思いながら。

さ「わたる」

声をかけると、わたるはお椀を置いてこちらを見た。少し寒そうに見えたから、膝掛けをかけてあげて、もう一度席に着く。

さ「一回ご実家に帰った方がええと思う」

う「え…?」

目をぱちくりとさせて、じわりと滲むのがわかった。俺も泣きそうやけど、…踏ん張って、言葉を紡ぐ。

さ「今のわたるを1番わかってくれるのは、お義母さんやと思うんよ」

弱っているわたるの隣で、背中をさすりたい。一緒にしゃがんで、できるだけ同じ目線で、苦しい現実を受け止めたいってずっと思ってる。でも、俺にはやっぱり、全部をわかってあげることはできないから。

う「でも、まだ子どものことは…」

さ「この機会に話すべきやと思う。子どもも大事やけど、…俺は今ここにいるわたるが1番大事や。きっと、お義母さんにとっても」

お互いの親には、まだ子どもの話はしてへん。できてから話して喜ばせてあげよう、やなんて言ってたけど。妊活を秘密にして、わたるが今苦しんでるっていうことを秘密にしても、絶対お義母さんは喜ばへんやろうなって。

さ「俺もついていくから、」

う「いい。1人で行く」

さ「え…」

う「1人で行かせてほしい」

まっすぐ見つめられる。驚いて返事をする前に、わたるは「あきらのことが大切だから、…これは、否定的に捉えてほしくないんだけど、」と前置きをして。

う「今は、…あきらと離れたい」

さ「…っ」

耐えろ。ぐっと目を瞑って、深く息を吐いた。俺だって、実家に帰れなんて、一見突き放すようなこと言った。

さ「………うん、わかった」

お互いに大事に想い合った結果がこれなら、受け入れるしかないやろ。自分に言い聞かせて、深く頷いた。

久しぶりに口をつけた雑炊は、まだほんのりあたたかった。

わたるside

う「ただいま、」

もはや懐かしいと思うようになってしまった玄関に足を入れて、声をかける。バタバタと慌ただしい音がして、ひょこり、と見慣れた顔が現れた。

「あんたもう帰ってきたの?まだご飯の準備できてないんだけど」

う「…〜っ、ふはっ」

それが久しぶりに帰ってきた息子への第一声かよ。堪えきれずに吹き出してしまった俺を、訝しげな顔で彼女は見てくる。子どものこととか、体のこととか、置いてきたあきらのこととか、いろいろ考えてたのが吹き飛ばされるくらいの拍子抜け。いつも通りすぎるくらい、この家は変わらずいつも通りだった。

う「うっせ、俺が帰ってくる前に準備しとけ」

「だから準備しようと思ってたら、あんたが先に帰ってきたんでしょ?っていうか明くんは?」

う「あきらは今回いません〜、残念でした」

「はー?なんで可愛い息子を連れてきてくれないのよ!」

う「お前の息子は俺だよばか」

「わかってますぅ〜。あんただけならご飯の準備手伝ってよね」

う「はいはい」

軽口を叩き合いながら靴を脱いだ。結婚してからはずっと2人で帰ってきてたから、1人分の靴にざわり、と心が撫でられる感覚。

「おかえり、渉」

う「ただいま、…母さん」

俺と同じ色の瞳に、笑いかける。そっか、ここにあきらはいないんだ。

お昼ご飯はハンバーグだった。母親の中で、俺は子どもの頃と変わらないらしい。まぁご察しの通り、食の好みは全然変わってないんだけどさ。

ハンバーグは手間がかかって自分では頻繁に作れないから、有り難く完食した。これが本当に美味くて悔しいから、後でソースのレシピを教えてもらおう。今度あきらに食べさせてやる。

自分の食器をシンクに持って行って、2人並んで片付ける。母さんが、俺の手つきを見て少し驚いていた。

「ちゃんと家事してるんだ」

う「なに?」

「洗い方、様になってるじゃん」

そうかな、自分では気が付かなかった。自分の手を見て、口元が緩くなる。

う「結婚してもう2年だからな。3年目見えてきてるし」

「そうだよねぇ」

ふと、母さんが目線を向こうの方にやる。そこには、俺たちの結婚式の写真が飾られていた。俺の家族とあきらの家族が並んで、真ん中には幸せそうな2人が寄り添っている。懐かしいなぁ…たぶんあの時、俺が世界で1番幸せだった。

う「あのさ、俺……今、妊活してるんだ」

母さんが振り返る。手に持っているお皿を一旦置いて、俺の目を見た。

「そう」

う「………へ?なにその反応」

「そうなんだぁ」

う「いや、もっと驚けよ」

「驚いてるよ、充分」

思いの外、真剣な表情をされてこっちが驚く。俺も、持っていたコップを置いて、向き直った。

「あんたが紹介したい人がいるって言って男を連れてきた時も、結婚式を挙げるから来て欲しいって言われた時も。驚かされてばっかり」

何か言えるわけもなくて、押し黙った。昨日、実家に帰るって電話した時に「あんたはいつも突然だよねぇ」ってため息を吐かれたことを思い出す。…そっか。俺はそこに至るまでいろいろあって、すっごく悩んでるけど、結果しか伝えてない母さんはいつも。

う「ごめ、…」

「いい人と出会えたんだね」

心に染みるような声で、母親は言った。顔を上げると、慈しむような目線で俺を見てた。知ってる、…この視線、いつも受けてる。俺の周りは、どうしてこんなにもあったかいんだろう。

「体質のことで、渉はずっと悩んでた。見てて辛そうだったし、産んだ私に責任があると思ってたから、どんな言葉も受け止めようって思ってた。まぁ、行きすぎる言葉には遠慮なく言い返してたけど」

思春期の、頃。お腹がとてつもなく痛くて、トイレに行った時。初めてあの赤を目に入れて、…自分がこわくて、恐ろしくて、ぐちゃぐちゃになった。

どうして俺が、って何回も思った。感情をどこにぶつけたらいいのかわかんなくて、母親に何度も当たった。目に入れるものすべてを憎んでいた。それくらい、しんどくてどうしようもなかったんだ。

「そんな渉がちゃんと自分の体のことを乗り越えて、…子どもを産みたいって思えるほど、いい人と出会えたんだね」

う「……うん、そうだよ。俺のパートナーがあきらだから、子どもが欲しいんだ」

俺の言葉に、母さんは頷いた。どうして、母親ってこんなにつよいんだろう。ねぇあきら…俺、母さんみたいになれるかな。

そんな胸の内なんてこの人はわかることもなく、おちゃらけた様子で俺を小突き始める。昔から切り替えが早いんだよなぁ、…そういうところは似てるかも。

「羨ましい〜、明くんの遺伝子とか絶対顔良いじゃん」

う「んふ、だろ?俺もそう思う」

「えーでも実質さぁ、あんたには私の遺伝子入ってるんだし、…つまり!産まれてくる子って私と明くんの遺伝子含まれてるってこと!?」

う「その考え方まじでキモい〜」

はしゃぐ母さんにお皿を手渡す。何言ってんだ、こいつ。

う「あきらも子どもも、全部俺のだから!」

「はい出た独占欲。結婚してまで見苦しいねぇ」

う「黙れって」

仕方ないだろ、事実なんだもん。頬を熱くして目線を逸らした俺に、くすくす笑ってくるのがうざったい。

2人分の食器はあっという間に片付いた。最後のコップを戸棚に戻すと、意味ありげににやついている母さんと目が合う。

う「なんだよ」

「…実はさぁ、知ってたんだよね。妊活してること」

う「……は!?」

「隠し事って難しー!」とか叫んで大笑いしながら、母さんが俺の体をばしばしと叩く。痛ってぇな、仮にも生理中だぞこっちは。

う「お前、なんで知ってんの」

「昨日電話してきたじゃん。あんたの声暗いし、あんまりにも話が急だし、なんかあったんだろうなぁとは思ってたんだけど。あの後、明くんから連絡が来たの」

う「あきらが?」

ほれ、と見せてきたトークは、確かにあきらとのものだった。妊活のこと、昨日のこと、俺のこと…最後には「また改めて僕からも直接お話しさせてください」という文面で締めてあった。

う「あきら…」

「妊活の話とか、『渉から聞いた方が絶対嬉しいのに僕が先に言ってしまって申し訳ないです』なんて言ってくれてるけどね。そりゃ実の息子からそんな話聞いたら嬉しいに決まってるけど、私はこの明くんの気遣いが嬉しかったな。…明くんが、っていうよりかは、あんたの夫が、ここまで渉のこと想ってくれてるのが嬉しいの」

なんだよ、…俺、昨日酷いこと言ったのに。酷い有様、見せたのに。お前はどこまで許してくれるの。なんで優しくしてくれるの。どうしてそんなに、好きでいてくれるの。

胸がいっぱいになって、あきらのことが好きだと心が暴れ出す。あぁどうしよう、早く会いたくなっちゃった。

「明くんも、私にとったらもう息子だけどね〜」

う「ほざくなあほ。本人に言うなよ?あいつ喜びそうだから」

「え〜可愛い〜〜!」

「あんた私に明くん奪られたくないからって予防線張るのやめなさいよ」なんて咎められたけど、聞き流す。こっちは独占欲強いんだからしょうがねぇの!

う「なぁ、俺明日帰るわ。…大事な人のために」

生理休暇の間は実家に居座る予定だったけど、やっぱりやめた。もう今すぐ会いたい。声が聞きたい。抱きしめてあげたい。大好きだよって、たくさん伝えたい。

俺の顔を見て、「あんたはほんといつも突然だよねぇ」と母さんは笑った。

あきらside

鍵を開ける音が聞こえて、ぴく、と反応した体を慌てて押さえた。いやいやいや、わたるなわけないやん。…え?じゃあ誰?もしかして、…不審者!?と、とにかく戦えるもんを、と家中を探し回ろうとした矢先に、「ただいまぁ」と愛しい声が聞こえた。

さ「えっ、え!?おかえり…!?」

今度こそ玄関に向かうと、やっぱりずぅっと頭の中を占めていた人が、目の前に立っている。一昨日ぶりやのに、1日空いただけですっごくすっごく久しぶりに感じた。

さ「もう帰ってきたん!?」

う「なにその言い方〜、もしかして帰ってきてほしくなかった?」

さ「っ、そんなわけないやん!」

俺の答えに満足そうに笑ったわたるは、靴を脱いで洗面台に向かう。まって、まだ状況が飲み込めてへんのやけど…!?俺も洗面台までついていくと、わたるは振り返ってくふくふ笑ってた。体調も、機嫌も良さそうで良かった…。

う「なにもう〜、手洗いうがいするだけだから、リビングで待ってて」

さ「いや、予定より早かったから大丈夫なんかなぁって…」

う「大丈夫だよ。だから帰ってきたの」

さ「そっかぁ…。お義母さんに元気もらえたんやね」

う「まぁね、生理中だっていうのに家事めちゃくちゃ手伝わされたけど」

さ「んふふ、そうなんや。ゆっくり話せた?」

う「ん、おかげさまで」

穏やかな表情に安心する。やっぱり、実家に向かわせたのは正解やったみたい。

手洗いうがいを終わらせて、2人でリビングに向かう。ソファに座って、…沈黙。なんやろ、喧嘩別れではなかったはずやけど、少し気まずい。

「そうや、ココア飲む?」と立ち上がって、キッチンに向かおうとすると、くい、と引っ張られる袖。「いい。ここいて」なんて言われてしまっては、向こうに行くこともできなくて、大人しく元の場所に戻った。

さ「でも、…ほんまに元気そうで良かった。やっぱり、しんどい時は家族とおるのが1番やもんね」

俺の言葉に、わたるは目を見開いた。あれ、なんかまずいこと言ったかな、…と思った矢先に、ぐい、とまだ掴まれたままの袖が強く引っ張られる。

う「なに言ってんの」

さ「へ?」

う「お前も、家族じゃん」

まっすぐ飛ばされる、視線と言葉。それらに乗った、気持ち。

呼吸が乱れる。これほど一緒におって、頭から抜けていたわけやないけど、…でも。

わたるがここにいない2日間、ずっとトイレで蹲る彼がフラッシュバックしていた。大事な人をあそこまで追い詰めていたことが、情けなくて…不甲斐なくて。いっぱい相談して、いっぱい悩もうって言ったのは俺…やのに、結局わたるに負担をかけさせてしまった。

そして、やっぱり俺やったらだめなんかって。わたるの苦しみ、痛み、しんどさ。全部丸ごとわかってあげたいのに、…一緒に苦しみたいのに、それはどうしても難しい。俺は全部をわかってあげられないんやって、付き合っている時から何度も感じていた現実を、また突きつけられた気分やった。

さ「俺、…ちゃんとわたるの家族になれてるんかな」

う「あきら…」

さ「わたるが帰ってきて、元気になってて。お義母さんさすがやなぁって、良かったって思う反面、……俺の力不足っていうか、俺だけじゃ支えきれんかったんやって、思って……大事に、できひんかった、なぁって…っ!」

下唇を噛む。こうでもしないと、膜を張っている涙が溢れてしまいそうで。

わたるが妊夫になることで、また俺がわかってあげられないことが増えていく。想像はできても、現実とは違うやろうし、…また、気持ちのズレが起こるかもしれん。立場が違うから当たり前のことなんかもしれんけど、それでも俺は全部をわかりたかった。わたるのために、…大事な人を大事にしたい、俺のエゴのために。

う「それは違うよ」

下を向いた俺の手に、そっと寄り添う手が見えた。その手は、ぎゅぅっと、俺の手を握る。

う「あきらは、俺を誰よりも大事に想ってくれてるよ。ちゃんと伝わってる。どうしてそんなに想ってくれるんだろう、…って不思議になっちゃうくらい」

すり、と指先を撫でられて、こつん、と薬指にはめた指輪同士が当たった。

う「あきらは、俺の大事な家族だよ。いつも大切にしてくれてありがとう」

ぎゅうって、抱きつかれる。あったかい体温で、じんわりと心が溶けていく。この人が好きやって気持ちが、溢れ出す。

俺からも背中に手を回そうとして、…躊躇った。吐き出してしまった弱い部分が、まだ顔を出している。そんな感情の機敏に聡いわたるが、胸の中で俺を見上げた。

う「…思いっきり抱きしめろよ」

さ「〜っ、うん」

大切に、大事に。強く、つよく。

想いと比例するように、ぎゅうっと抱きしめた。ハグって不思議や。無言でも、コミュニケーションの手段にちゃんとなってる。お互いの体温が融け合って、良い匂いがして、とくとく、と鳴る心臓を感じて。ぎゅーが大好きなわたると一緒にいるから、俺も大好きになっちゃった。

しばらくそうしていると、わたるが俺の髪の毛で遊び始めた気配がした。くすくす笑うと、…んふ、わたるも笑っとる。そういえば、最近こんな穏やかな時間も取れてなかったかも、って今更ながら気がついた。

う「あのさ、母さんに連絡してくれて、ありがと」

さ「ん?…あれ、お義母さん言うてもたん!?」

う「あの人に隠し事なんて無理。にやつきながら言ってきたもん」

さ「んっふふ、そうやったんや」

にやついているお義母さんを想像してみると、確かに隠し事とか苦手そう。俺も苦手やし、気持ちはものすごくわかる。意識すればするほど顔に出ちゃうもんやんなぁ。

さ「ごめんな。わたるから話した方が絶対良いっていうのはわかってたんやけど、」

う「ううん。お前が言ってくれてて良かった。そのおかげで、母さんも受け入れる準備ができたのかなって思ったし、…それに母さんだけじゃなくて、俺もすっごく嬉しかったよ」

わたるは少し体を離して、俺をまっすぐ見つめた。ほっぺたを赤く染めながらはにかむの、冗談抜きで世界一かわええんやから、そんな不意打ちでせんといてやぁ…。

さ「んふ、それなら良かった。でも…今度は俺も直接わたるのご両親にお話ししに行きたい」

う「うん、今度は一緒に行こ。今回は置いていってごめんね」

さ「ええんよ。わたるがそうしたいって、ちゃんと言ってくれたし、…俺にとっても、1人になる時間が必要やったんやと思う」

「そっかぁ」と溢すわたるの頭を撫でる。俺の方こそごめんね。どんなことをされても離れないよって言ったのは俺やのに。

さ「あのさ、嫌な気持ちにさせたらごめんなんやけど…生理、ずっと来てなかったん?」

思い出すのはあの潰れた箱。あれを使おうって思ったのは焦りもあるやろうけど、何かそれに起因する事実があるはずや。

う「…うん。予定日から、もう2週間も過ぎてて。前だったら生理不順だったからそんなことざらにあったんだけど、あきらのおかげで最近はなかったから」

さ「そっか。デリケートなことやけど、相談…してほしかったな」

う「…っ、ごめん。もしかして妊娠したかもって思ったら、びっくりさせたくて。…喜んで、ほしくて」

さ「うん、ありがとう。その気持ちはめっちゃ嬉しいんよ。でも…」

ぽろ、と溢れ落ちた雫を拭う。わたるが俺を想ってくれるように、俺もわたるを想ってるんだよ。

さ「今まで安定してた周期が、2週間も遅れるなんて一大事やで。今回のは心理的な要因が大きいと思うけど…もしかすると、大変な病気が潜んでるかもしれへん。それほどこわいことなんよ。体のことは、どんな小さなサインも見逃したらあかんの」

最初はちょっとした違和感。それに気づいていたはずやのに、まだ大丈夫かなと思って放ったらかしにしていたせいで、結局大事になってから病院に来る人を何人も見てきた。もっと早く来てくれたらこんなことには、と医師の後ろで奥歯を噛み締めることが何度もあった。

やからせめて俺の周りの人には、…手が届く範囲の人には、自分のことを大事に思ってほしい。敏感になりすぎるのは、職業病かもしれんけど。

さ「念のため、生理が終わったらかかりつけの病院行ってきてほしいな」

う「うん。ありがとう、あきら」

さ「ううん、俺が心配なだけよ」

困ったように笑うと、わたるが頭を撫でてくれた。もう一度「ありがとう」って囁かれて、胸がいっぱいになる。愛情をちゃんと受け取ってくれる、ってすっごくすっごく嬉しいことだ。

う「これからは、何かあったらちゃんと相談する。1人で抱え込まないで、あきらに頼るから、…だから、もう一度、一緒に頑張ってくれる…?」

さ「もちろん。でも今度こそ、無理のないペースで。お互いに、妊活が負担になるようなことは無しにしよ。やって俺たちは、幸せのために子どもを望んでるんやもん」

約束みたいに口付ける。お互いの気持ちがまた合わさるまで、ここまで遠回りしちゃうような頼りない親やけど、…やけどね。

愛は、溢れるくらいにここにあるよ。俺たちのところに来てくれたら、俺らだけじゃ抱えきれない愛をたっぷりあげる。

だからどうか、俺たちのもとにおいで。

わたるside

最近、体調不良が続いていた。体調不良と呼ぶには微妙なものかもしれないけど、なんとなく熱っぽい感じがしていらいらしたり、仕事中で声出してるはずなのにとにかく眠かったり、…あと食べ過ぎてちょっと太った。体重計に乗って絶句する俺の後ろで、「ん〜?気にするほどちゃうやん」って覗き込んできたあきらの頭を叩いたことも記憶に新しい。

う「今日で、2週間か…」

そして、生理が来てない。

下着を下ろした時に、ちょっと血みたいなのがついててやっと来たのかと思ったけどすっごく少量で、トイレットペーパーで下を拭っても何にもつかなかった。不正出血かなぁ。

トイレを出て、手を洗ってからリビングへと戻る。もうこんなことでは動揺することもなくなった。期待しないわけじゃない、…けど、期待しすぎなくなっただけ。あと、今がとっても好きなだけ。

う「あきら、なんか飲む?」

さ「ん〜、コーヒーお願いしてもええ?」

う「おっけー」

今日は2人のお休みが被った貴重な日。お出かけも考えたけど、たまには家でゆっくりするのもいいよねって、お家デートになった。結婚してるからお家デートじゃなくてただ家にいるだけ、なのかもしれないけど。

う「はい、どーぞ」

さ「ありがとう」

でも俺は家でゆったり過ごすのも大好きだ。ほら、今もこてん、と頭を肩に預けたらあったかく受け入れてくれる。うん、大好き。

さ「せっかく入れたのにココア飲まなくてええの?」

う「ん〜、もうちょっとだけ」

さ「眠い?」

う「…違う。くっつきたいだけだって、ばか」

ちら、と見上げると口角を上げてコーヒーを飲んでいた。くそ、確信犯か。恥ずかしいこと言わせやがって。

う「あ、そういえばさっきね」

首の角度を戻して目を閉じる。あきらの肩、俺の頭にちょうど良くて好き。心地いい感じする。

う「下着下ろしたら、ちょっとだけ血ついてて。生理にしては量少ないし、不正出血なのかなぁ」

体調のことは、ほんの僅かなことでもあきらに報告することにしていた。不安にさせてしまったあきらのためにも、俺のためにも。嫌なことは言わなくてええよ、って優しい彼は言ってくれたけど、言える範囲のことは全部話すように心がけている。

俺の言葉に、あきらは押し黙った。ことり、とコップを置いた音がして、目を開ける。あれ?もしかしてやばいやつだった…?なんか重大な病気の前触れ、とか。

う「や、でも本当にちょっとで!拭ってもなんともなかったし、たぶんだいじょ…」

キスをされたわけでもないのに、言葉が詰まる。それくらい、まっすぐ見つめられた。真剣に、愛情を込めた視線が俺を射抜く。息が、漏れる。

「ちょっと待っとって」ってあきらは俺の頬を撫でてから立ち上がった。寄りかかっていた体がいなくなって、少し寂しい。

それにしても、急にどうしたんだろ。よいしょ、と体勢を整えていると、急いだ様子であきらが戻ってきた。

さ「これ、…使ってみてくれへん?」

う「それって…」

あきらから手渡されたのは、いつかの潰れた箱だった。"妊娠検査薬"の文字をそっとなぞる。じんわり、心が痺れていくような…炭酸でしゅわりと溶けてしまうような、変な感覚がした。

さ「中身の袋は開けてないし、壊れてもないからちゃんと使えるはずやで」

う「……」

足元がふわふわする。本当に使っていいのかな…また、前みたいに裏切られた気持ちにならない?自分を否定するような考え方に陥らない…?

僅かに震えた俺の手を、包むようにあきらは握った。ぎゅって、優しく。

さ「わたる、一回深呼吸しよ。すーーっ、はぁぁ……」

あきらの真似をして深く息を吸って吐いた。二酸化炭素と同時に、俺の嫌な考えも少し吐き出された気がする。…うん、どんな結果だったとしても、俺にはあきらがいる。大丈夫、愛してくれる人がそばにいるなら。

まっすぐあきらの目を見つめて、こくりと頷いた。彼は無言で俺の頭を撫でて、1回ぎゅっと抱きしめてくれる。それだけで、本当の本当に安心しちゃうから不思議だ。

トイレのドアを開けて、下着に手をかけた。この前のことがフラッシュバックして息が止まりそうになったけど、ふるふる、と頭を横に振る。大丈夫、大丈夫。

思春期の頃、実家のトイレで見た、血の"赤"で俺の人生は一変した。まずその事実を受け入れるのに一苦労。親にも散々あたって、自暴自棄になって、学校に行くこともこわくて。これからどうすればいいのかわかんなくて、途方に暮れた。

でも、さかたの"赤"と出会って、俺の人生は変わったんだ。俺の辛さも、しんどさも、一身に受け止めてくれて、丸ごとわかろうと努力してくれた。

さかたが俺のことを好きって言ってくれた時、最初は本当に信じられなくて。なんで俺のことなんか好きなの?って、こんな体面倒くさくないの?関わりを持ちたくないって思うのが普通なんじゃないの?なんてひねくれた考え方しかできない俺を、全部全部肯定してくれた。

さかたの「好き」はあまりにもまっすぐで、こっちが恥ずかしいくらい。だけど、そんなさかたが俺も大好きだったから。今では懐かしい「うらさん」って呼び方も、ずっと耳に残ってる…記憶の中の、大切な宝物だ。

そして、今。

妊娠検査薬にくっきりと現れ始めた"赤"が、また俺の人生を変えようとしていた。

う「あきら!!」

リビングのドアを開けると、あきらがそわそわした様子で立ち上がった。バッと、手元の妊娠検査薬を見せる。

う「陽性反応、出た……っ、」

言い終わったと同時に涙が溢れて、思わず顔を手で覆った。いろんな感情がごちゃまぜになって、うまく言葉にできない…、どうしよう、本当に?

さ「〜っ、わたる!」

ぎゅぅぅって、つよく抱きしめられる。だめ、そんなことされたら俺、涙腺ぶっ壊れる…!嗚咽を漏らしながら、あきらの体にしがみついた。

さ「ありがとう、っ…!わたる、ほんまにっ……あかん、…はぁっ……あーもう、涙止まらんっ」

う「ん、っ……俺の方、こそ…っ!ありがとう、…全部全部、ありがとうっ…!」

あきらには出会った頃からずっとずっと支えられてきた。そんなこととっくの前からわかってたはずだったけど、妊活を始めて…改めて実感したんだ。俺の辛い時に一緒にいようとしてくれて、俺の嫌いなところも好きに丸ごと変えちゃうような、ばかみたいに優しい人。

結婚して良かった。この人を選んで良かった、って何回思わせてくれるの。何回俺を惚れさせるんだよ。

さ「あは、…わたる、めっちゃ泣いとる」

う「あきらだって…っ」

あきらが指先で涙を拭ってくれたから、俺も手を伸ばす。きらりと輝いた雫が指に乗って、それはとてもあたたかった。

さ「妊娠検査薬ってめっちゃ精度上がっとるし、確定やとは思うけど…正確にはまだ妊娠してる可能性があるってだけやから、明日病院行こ。ほんまは今すぐに行きたいくらいなんやけど」

う「ふふ、明日にしよ。おれ…今、これ見るだけでいっぱいいっぱいだから。エコーなんかで見ちゃったらもうキャパ超えちゃう」

さ「それは俺も。じゃあ、明日の楽しみに取っとこか」

手元の赤の表示を見る。びっくりだよね、こんなので赤ちゃんできたかどうかわかっちゃうんだって。結果もすぐ出たし、…本当かな?ってまだ実感できてはいないけど。

薬指に愛の印をはめた手で、お腹を撫でる。ねぇ、ここにいるの?俺とあきらの不器用な、まっすぐな愛に呼ばれて、来てくれたの?

せっかくなら、俺たちを選んでくれたこと…後悔させたくないな。思わず泣いてしまうような幸せを俺たちにくれたから、それ以上お返ししないと割に合わないよね。

さ「俺も触ってええ…?」

う「いいよ。まだなーんにも膨らんでないお腹だけど」

さ「でも、ここにおるんやもん。俺らの、子ども」

う「…っ、うん」

2人の手が重なって、ゆっくりとお腹を撫でる。優しく撫でられているかな。…まだわかんないか。でも、このあたたかさはどうか感じとってくれたらいいな。

大好きな人の瞳を見る。彼も、俺のことを見つめていた。顔が近づいてきて、長くて優しいキスをされた。いろんな気持ちが込められている甘くてしょっぱい口付けに、心がふわりと溶けていく。

う「あきら、本当にありがとう」

さ「俺の方もよ。ありがとうな、わたる」

幸せを一緒に噛み締められる人がいる。その存在が"家族"であることが、どうしようもなく嬉しくてたまらなかった。

2人で、…いや、3人で、ぎゅぅって抱きしめ合う。示し合わせたように、お互いの手がお腹をもう一度撫でた。

「「ありがとう」」

まだ名前もない君へ。

どうか俺たちと、家族になってくれませんか。

to be continued…

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